対象が管理職などにも拡大 適正な把握が求められる労働時間管理に備える
来年4月から、企業における従業員の労働時間の把握の対象が、管理監督者(管理職)や裁量労働者にも拡大され、すべての従業員の労働時間を客観的な方法で把握することが義務づけられます。
働き方改革関連法の成立にともない、平成31年4月から労働安全衛生法および関連省令され、現在、一般の従業員だけを対象に求められている労働時間の把握が、管理監督者などにも拡大されることになりました。これにより一般の従業員と同様に管理職の過重労働を防止し、すべての労働者の労働時間の適正化を図ろうとするものです。
労働時間管理の責務と管理しないリスク
労働時間管理を使用者の責務として定めた具体的な法令はありません。しかし、労働基準法では、法定労働時間、休日、休憩時間、深夜業務などに関する規定を定めています。また、使用者は労働者ごとに賃金台帳を作成し、労働日数、労働時間数、休日労働、時間外労働、深夜労働に係る時間数といった事項を適正に記入しなければなりません(労基法第108条、則第54条)。
これらの事項を賃金台帳に記入していない場合や、故意に虚偽の労働時間数を記入した場合には、30万円以下の罰金に処せられます(労基法第120条)。これらを見ても、使用者には、労働者の労働時間を適正に把握・管理する責務があることは明らかです。
しかし、現状を見ると、時間外労働に関する不適正な運用にともない、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど、会社が労働時間を適切に管理していないことによるトラブルも年々多くなってきています。
トラブルが発生した場合に会社が適切な労働時間の管理をしていないと、従業員にいわれるがままに未払い残業として多額の残業代を支払わなければならないリスクを抱えていることになります。
また、従業員の精神障害や脳・心疾患に関しては、労働災害としての認定基準が設けられており、労働時間との因果関係をはかるための基準が定められています。これらの疾病について、その要因が長時間労働による過重労働と認められれば、会社の安全配慮義務違反ということになり、損害賠償を請求されることにもなります。
適正な労働時間を把握するガイドライン
厚生労働省は、平成29年1月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を公表。会社が行うべき労働時間の把握のための具体的措置を明らかにしてます。
このガイドラインは、労働基準法のうち、労働時間に係る規定が適用されるすべての事業場を対象としています。そして、労働基準法第41条に定める者および、みなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る)を除くすべての者を対象労働者としています。ただし、適用されない労働者についても健康確保を図る必要があることから、適正な労働時間管理を行う責務があるとされています。
パソコンの使用時間など客観的な記録で把握
ガイドラインでは、従業員の労働時間の把握のために講ずべき原則的な措置として、使用者が自ら現認して記録するか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間記録など客観的な方法によって記録すること、としています。なお、これらの方法によらずに自己申告とする場合には、ガイドラインを踏まえて適切な時間の把握を行うよう従業員への十分な説明が必要です。客観的記録による在社時間と申告による時間が乖離する場合は実態調査を義務づけています。
来年4月以降は、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての労働者の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握するよう義務づけられることになりました。労働時間の状況を客観的に把握することで、長時間働いた労働者に対する医師による面接指導を確実に実施することを目的としたものです。
今後、労働者の労働時間管理の重要性は一層高まり、行政の取締りが強化されることも予想されます。適正な労働時間管理を行う仕組みを構築し、生産性を高めることが企業の成長に重要な要素となるでしょう。
ガイドラインのおもなポイント
労働時間の考え方
労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること
たとえば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当すること
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
(1)原則的な方法
1.使用者が、自ら現認することにより確認すること
2.タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
(2)やむを得ず自己申告制で把握する場合
1.自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
2.自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
3.使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること