職場のハラスメント対策が強化された!パワハラ対策の義務化とセクハラ対策の強化
労働環境の劣化、悪化を招く各種ハラスメントについて、対策を強化する労働法制が整備されてきています。
5月に成立した改正法で事業者に何が義務付けられたかを概観します。
5月29日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」(女性活躍推進法)が可決・成立しました。
この中に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)が含まれており、以前から議論のあったパワハラ防止が法制化されるとともにセクハラ防止に対しても規制が強化されました。
パワハラの現状と法整備の背景
都道府県労働局における職場のいじめ・嫌がらせに関する相談は増加傾向にあり、2012年度以降、全ての相談の中でトップとなっています。
2018年度は82,787件と相談件数全体の25.6%を占めており、引き続き増加傾向にあります。
また、嫌がらせ、いじめ、暴行を受けたことによる精神障害の労災認定件数も増加傾向にあり、2017年度においては、88件となっています。
職場のパワーハラスメント(以下、パワハラという)は、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものです。
放置すれば、パワハラを受けた労働者は仕事への意欲や自信を喪失し、心身の健康を損ない、ときには自殺など命すら危険にさらす恐れもあり、撲滅していかなければならない問題です。
企業にとっても職場の生産性を低下させ、経営上大きな損失にもなります。
職場のパワハラの防止についてはこれまで、2011年度に厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議(ワーキング・グループ)」による提言がなされて以降、企業や労働組合等はそれぞれの立場から対策に取り組むとともに、厚生労働省においてワーキング・グループも様々な取組みを実施してきたところです。
また、「働き方改革実行計画」(2017年3月28日働き方改革実現会議決定)において、「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」とされたことを踏まえて、2017年5月から検討会が10回にわたって開催され、職場のパワハラの定義や実効性のある防止策について検討を行ってきました。
今回の労働施策総合推進法の改正ではこうした背景を踏まえて、パワハラの要素を明らかにするとともに、労働者からの相談体制整備などの必要な措置を講じるよう事業主の義務及び責務などを定めました。
パワハラ対策
まず、国の施策として、「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実させること」(第4条第1項関係)と明記し、職場におけるハラスメント(セクハラ・パワハラ等)対策を促進させることとしました。
また、パワハラ要素として、1.職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること、2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、3.それによりその雇用する労働者の就業環境が害されることと定め、事業主に対して労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けました。
したがって、会社としては、セクハラ防止対策同様にパワハラに関しても社内相談窓口を設置するなど何らかの相談体制を整備しなければなりません。
また、労働者が被害相談をしたことなどを理由として解雇その他不利益な取り扱いにすることを禁止しました。
パワハラに対する、事業主及び労働者の責務
そのほか、事業主の責務として、パワハラによる就業環境の悪化を防止するために、事業主(社長や役員)自らはもとより、労働者が他の労働者に対してパワハラにつながる言動をとらないよう、パワハラに関する研修の実施その他必要な配慮をするように努めなければならないこととされました。
一方、労働者の責務として、労働者自らもパワハラに対する関心と理解を深めるだけでなく、他の労働者に対する言動にも注意を払うように努めなければならないこととされました。
なお、この法律は、大企業は2020年4月から施行。中小企業は同時期に努力義務でスタートし、2022年4月に義務化される見通しです。
セクハラ・マタハラ対策の強化
セクシャルハラスメント(以下、セクハラという)は1999年施行の改正男女雇用機会均等法で事業主の配慮義務を定め、2007年から事業主に防止措置が義務付けられました。
マタニティーハラスメント(以下、マタハラという)は2017年から同法と改正育児・介護休業法で事業主の防止措置が義務付けられています。
今回の改正では、事業主に対して、セクハラ、マタハラに起因する問題について相談した労働者に解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないことが明確にされました。
また、自社の労働者が取引先などの他の事業場においてセクハラ問題を起こした際において、被害者側の事業主から事実確認等の協力を求められた際には、これに応ずるように努力義務が課せられました。
また、前述のパワハラ同様に、事業主の責務として、労働者のセクハラへの理解を促進するための研修等の実施に関する努力義務、労働者の責務としてセクハラに関する理解を深め他の労働者に対する言動に注意を払う努力義務が課せられました。