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労働基準法の一部改正!未払い残業代等の賃金請求権の消滅時効が2年から3年に改正

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投稿日:2020年6月3日(水)

民法の債権関係の規定が大幅に改正されたことに伴い、労働基準法も一部改正され、賃金債権に関する消滅時効期間が3年となるなど、残業代など未払い賃金への影響も大きくなります。

2017年5月、債権の消滅時効期間の改正を含む民法の一部改正が成立し、2020年4月に施行されました。

民法上の債権は、債権者が権利を行使することができることを知った日から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅することになりました。

これを受けて民法の特別法である労働基準法上の賃金の請求権の消滅時効期間に関する見直し案が国会において審議され、2020年3月27日に成立し、4月1日から施行となりました。

賃金請求権の消滅時効は、当分の間、3年

従来、労働基準法では、「この法律の規定による賃金(退職金を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合において、時効によって消滅する」と規定されていました(第115条)。

この法律の適用を受ける賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます(第11条)。

月給、週給、日給、時給など定期的に支払われる賃金はもとより、時間外・休日労働に対する割増賃金(いわゆる残業代、休日出勤手当)、年次有給休暇期間中の賃金なども含まれます。

したがって、これまでは、残業代の未払いや最低賃金を下回る賃金の支払いをめぐる争いに対して、使用者の遡及支払が求められるのは2年まででした。

しかし、改正により、賃金請求権の消滅時効は民法の改正に合わせて5年に延長されました。

ただし、直ちに5年という長期間の消滅時効期間を定めることは労使の権利関係を不安定化する恐れがあることや企業負担なども考慮し、経過措置を設けて、当分の間、3年の消滅時効期間としています。

これは、使用者の賃金台帳の保存期間(3年間)に合わせたものです。

なお、従来の労働基準法では、賃金請求権の消滅時効の起算日に関する規定がなかったことから、客観的起算点として「賃金支払日」であることを明確にしました。

未払い残業代請求への影響

賃金請求権の消滅時効が「2年」から「3年」に見直されたことにより、最も影響が大きいのは残業代の未払い問題です。

労働時間法制に関するコンプライアンスの認識不足や運用の誤り、または労働時間管理の不徹底により、残業代の未払いをめぐり争われることは多々あります。

これまでは、残業代の未払いをめぐる争いがあっても、時効(2年)が経過すれば労働者は残業代を請求することができませんでした。

しかし、賃金請求権の消滅時効期間が3年(将来的には5年)に延長されたことで、在職中の労働者はもとより退職した元労働者から3年分の未払い残業代請求をされるとこれまで以上に高額なものとなります。

特に今回の改正内容について新聞、マスコミなどで情報が広まれば、これまで未払い残業代を意識していなかった退職した労働者も請求権があることに気づき、残業代の未払いを請求してくる可能性もあります。

また、合同労組(いわゆるユニオン)や労働者側弁護士にとっては、未払い請求額が多くなることから労働者の依頼を受けやすくなります。

なお、労働基準法の一部改正では、その施行日を民法の改正の施行日(2020年4月1日)と同日にしており、施行日前に支払期日が到来した賃金請求権の消滅時効期間は従前の規定(2年)によるものとされ、3年の適用を受けるのは施行日以後に支払日が到来する賃金請求権とされています(下図参照)。

遅延損害金と付加金

未払い残業代に対しては、不払いのときから、年利6%の遅延損害金が発生します(商法第514条)。

また、請求してきた者が退職した労働者である場合には、年利14.6%の遅延損害金を請求することができます(賃金の支払の確保等に関する法律第6条)。

これは、会社が労働者に支払うべき賃金を支払うべき日に支払っていないという債務不履行をしていることによるものです。

債務不履行があると、支払いを受けるべき側に損害が発生します。

その損害を賠償するものとして請求することが認められているのが遅延損害金(遅延利息)です。

消滅時効の期間が3年になると今まで以上に支払いリスクが膨らむことになります。

さらに、労働者から未払い残業代の請求に関して訴訟を提起されると裁判所から「付加金」として未払い残業代と別途にそれと同等の金額の支払いを命じられることもあります。

付加金は、会社が労働者に対して、賃金や残業代を支払わなかったことに対するペナルティです。

労働基準法では「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から2年以内にしなければならない。」(第114条)と定めており、労働者の請求に基づき、裁判所が賃金不払いなどに関して会社側の対応が悪質と判断したときに支払を命令することができるものです。

なお、改正では、この付加金の請求に関する消滅時効期間についても、5年を原則としつつ、経過措置として当分の間、3年とすることになりました。

今後の企業の対応

賃金請求権の消滅時効の改正にともない、企業として検討しなければならないことがいくつかあります。

まず、現時点において、残業の未払いがないかどうかの検証と検証により未払いがあった場合には、清算してしまいましょう。

それによって、過去の請求リスクを少額で回避できます。

特に固定残業代制を導入している場合には、固定残業時間数を超えた残業時間分を支払っていないことはよくあります。

次に労働時間管理を従来以上に厳格化し、残業に関しては残業許可制などにより残業時間管理を適正に行うことです。

また、賃金規定の見直しを図り、労働時間の端数処理および賃金計算の端数処理の仕方や割増賃金の計算方法が適正かどうかの確認をしておくことも必要です。

定額支払の諸手当(通勤手当・家族手当などを除く)などで、割増賃金の算定の基礎に含めるべきものを含めていないといったことがないように精査しなければなりません。

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