2021年4月の中小企業への適用に備えて 最新判例『同一労働同一賃金』と対応のポイント
同一労働同一賃金は中小企業にも2021年4月から適用されます。
これに関して賞与と退職金の扱いをめぐる最高裁判断が2020年10月に示されました。
それを踏まえて今後の対応を検討しましょう。
同一労働同一賃金とは
『同一労働同一賃金』とは、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差を解消することを目指すものです(厚生労働省:「同一労働同一賃金ガイドライン」)。
この同一労働同一賃金は、働き方改革関連法の一つとして改正・成立したパートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)に基づくものであり、中小企業には2021年4月1日(大企業は2020年4月1日に適用済)から適用されます。
具体的には、正規雇用労働者と非正規雇用労働者という雇用形態の違いで、1.業務内容及び責任の程度(以下、職務内容)、2.職務内容及び配置の変更の範囲、3.その他の事情を考慮して不合理な待遇差を設けることはできません(第8条)。また、1.と2.が同一である場合は賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について差別的取扱いが禁止されます(第9条)。
さらに、非正規雇用労働者は、正規雇用労働者との待遇差の内容やその理由について、事業主に説明を求めることができ、求められた場合、事業主には説明義務があります(第14条)。
その際、説明を求めた非正規雇用労働者に対し、解雇や減給など不利益な取扱いをすることが禁じられています。
この同一労働同一賃金に関しては、既に長澤運輸事件やハマキョウレックス事件などいくつかの最高裁判例が示されていますが、新たに2020年10月13日には大阪医科大学事件、メトロコマース事件、10月15日には日本郵便事件(3件)に関して最高裁判決が出されました。
いずれの判決も個々の事例ごとに前述の1.2.3.の3要素を精査して不合理な格差となっていないかを判断したものです。
ここでは今後の対応を検討する際の参考として、10月13日に示された2つの最高裁判例のポイントをまとめることとします。
賞与に関して(大阪医科大学事件)
この事件は、秘書業務に従事していた女性アルバイト職員が、正社員に支給される賞与および私傷病による欠勤中の賃金等がアルバイト職員の自分に適用されないことは労働契約法第20条に基づき違法であるとして、大学側に対して不法行為に基づき上記相違に係る賃金相当額等の損害賠償を求めたものです。
原審の大阪高裁では、賞与の不支給について、正職員全員に年齢や成績、大学の業績に関係なく一律に支給されているにもかかわらず、アルバイト職員に全く支給されないのは不合理であると判断し支払いを命じました。
さらに、賞与水準について、職務内容および責任の違いなどはあるが契約職員には正職員と比較して80%の賞与が支払われているのに対して、原告フルタイムアルバイト職員について、正職員の60%を下回る水準での支給は不合理であると判断しました。
また、私傷病による欠勤中の賃金の不支給については欠勤中の賃金のうち、給料1ヵ月分および休職給2ヵ月分を下回る部分の相違は不合理としています。
これに対して、最高裁判決では、原審の判断から一転、賞与、私傷病による欠勤中の賃金に関する正職員と
アルバイト職員との待遇差はいずれも不合理ではないとの判断がなされました。
その理由として、正職員の賞与は1.算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものであること、2.同大学の賞与は正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力および責任の程度等に照らして、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしていること、3.アルバイト職員の業務は相当に軽易で、正職員との一定の相違があり、人事異動・配置転換にも差があることなどから、職務内容を考慮し、かつ、新規採用の正職員との年収比が55%程度であることなどを踏まえても、賞与不支給は不合理とまではいえないとの判断を示しました。
また、アルバイト職員に対する契約職員および正職員への職種転換のための試験による登用制度が設けられていたことなども考慮されました。
私傷病による欠勤中の賃金の支給に関しては、正職員が長期にわたり継続して就労し、または将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持・確保するという目的によるものであり、同賃金は、このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるとしています。
それに対して、アルバイト職員はその契約期間が1年以内とされ、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提として勤務を予定しているものとはいい難いこと、当該アルバイト職員に関し、有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情を見当たらないことなどから、最終的に正職員とアルバイト職員との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは不合理であるとはいえないと判断しています。
退職に関して(メトロコマース事件)
この事件は、東京メトロの小会社(メトロコマース(株))でメトロ駅構内のキヨスク売店勤務の有期労働契約の社員4人が、同様の業務に従事している正社員との間において退職金の不支給、住宅手当、褒賞、時間外労働に係る割増率に違いがあることは労働契約法第20条に違反して不当であると主張して、損害賠償等を求めたものです。
退職金以外の手当等の待遇の相違については、不合理とした東京高裁の判断が最高裁においてもそのまま認められました。
退職金の不支給に関しては、原審の東京高裁では、契約社員は販売業務からの変更はないのに対して正社員は業務の変更があり得ること(職務内容、配置の変更)を認めたうえで、契約社員に退職金が支給されないのは不合理であり、4人のうち10年程度勤務の2人に対して正社員と同じ基準で算定した額の少なくとも25%程度は支給すべきであるとしました。
これに対して最高裁の判決では、退職金の支給の有無も不合理となる場合があり、退職金の性質や支給目的、労働契約法第20条に基づき業務内容や配置転換の範囲なども検討すべきであると判断しています。
そのうえで、同社の退職金は、正社員としての職務遂行をし得る人材の確保やその定着を図る目的から、様々な部署で継続的に就労が期待される正社員に支給されているものであり、正社員は欠員補充や休暇・欠勤した不在販売員に代わり早番・遅番の代務があるほか、複数店舗統括などの業務に従事することなどがあるとしています。
しかし、契約社員は、1.店舗販売業務のみであること、2.勤務場所の変更はあっても業務内容に変更はないこと、3.正社員への段階的登用制度があること、4.原則契約更新があり65歳定年など短期雇用前提とはいえないものの、勤続年数10年前後であることなどを踏まえても退職金の不支給は不合理とはいえないとの判断をしています。
今回の判例から見えるのは、退職金は、正社員の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い、継続的な勤務等に対する功労報償などの複合的な性質を有するものとし、その目的は正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的があると認定したうえで、さまざまな部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものと判断していることです。