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従業員の新型コロナワクチン接種を巡る企業対応の注意点

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投稿日:2021年8月5日(木)

2021年2月、新型コロナウイルス対策を推進するため、新型インフルエンザ等対策特別措置法が改正(以下、「改正特措法」)されました。

同法の施行により、2年間を期限として、新型コロナウイルス感染症が「新感染症」の適用対象となりました。

改正特措法が事業主に与える影響を踏まえて、どのような法的対策が必要であるのか、今回はワクチン接種を巡る企業対応に焦点を当てて解説します。

改正特措法による影響

「改正特措法第4条(事業者及び国民の責務)」は、事業者と国民に対し、感染症の予防と感染予防対策への協力、感染蔓延により生ずる影響を考慮した適切な措置への努力義務を定めています。

事業者には、従業員や顧客などの安全に配慮する(安全配慮義務)とともに、事業の継続に関する注意義務(善管注意義務)など一般法規に適切に対応した上で、自主的な判断により、感染防止に向けた具体的な措置を講じることが求められます。

一方、「改正特措法第45条(感染を防止するための協力要請等)」では、感染状況に応じた国からの様々な協力要請や指示に対し、事業者は自発的に適正な措置を講じることが求められます。

企業は事業を継続する上で、感染症など予測不可能な事態において、国からの協力要請や指示があるという大前提に立って、財政的に備え、人事労務管理など危機管理に対する対応の検討を進めることが急務となっています。

ワクチン接種の努力義務とは

ワクチン接種は、「予防接種法」に基づき、感染症のまん延防止の観点から実施されるものです。

「予防接種法」では、「国民は接種を受けるよう努めなければならない」と規定しています。

新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種については、2020年12月に「改正予防接種法」が施行され、「臨時接種の特例」と位置づけています。

また、厚生労働省は「新型コロナワクチン接種についてのお知らせ」により、接種は本人の自由意志であり、周りの人に接種を強要することや、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないように呼びかけています。

企業に求められる対応

企業の実態に応じた感染症予防対策の取り組みについては、日本経済団体連合会による「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」や、日本渡航医学界と日本産業衛生学会による「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」により、具体的事項が記載されています。

今回、新たに感染症予防対策の要として、ワクチン接種が職域にも求められ、企業は、早期にワクチン接種に関する方針を決定する必要性に迫られています。

職域接種とは

政府は、ワクチン接種に係る地域の負担を軽減し、接種の加速化を図ることを目的として、企業や大学などにおける職域単位で行う「職域接種」を推奨しています。

職域接種では、ワクチン接種の担い手として、従業員50人以上の企業に選任を義務づけている産業医に、その役割が期待されています。

また接種会場となる場所や会場運営、スタッフの確保は、職域接種を実施する企業などに任されます。

中小企業では、要件とされる接種人数の規模に満たず、医療従事者やスタッフの確保、接種会場の費用負担など、必要な体制を整えるのが難しいことが喫緊の課題ともなっています。

感染症予防対策としてのワクチン接種

企業が従業員に対して、個人の接種意思を尊重した上で、ワクチン接種を推奨することについては、法的には問題はありません。

ワクチン接種ができない人は、厚生労働省がまとめた「新型コロナワクチンQ&A」に掲載されているので確認しておきましょう。

注意が必要なのは、ワクチン接種の推奨が、接種をしないことに対する差別的言動やハラスメントに繋がる場合です。

政府は、接種をしないことを理由とした解雇や懲戒処分などについて、不利益な取り扱いであり、適切ではない、としています。

また採用時にワクチン接種を条件とすることや接種状況について確認すること、従業員の健康管理の一環として、ワクチン接種証明書の提出を義務づけることなど、接種の有無により不利益な取り扱いとなり得る対応は避ける必要があります。

ワクチン接種の推奨が強制となり、結果、従業員に健康被害が生じた場合、企業は安全配慮義務違反としてその責任を問われる可能性があります。

労災保険給付の適用については、業務遂行のために必要な業務行為に該当すると認められる医療従事者等や高齢者施設の従事者を除き、対象外となっています。

ワクチン接種では、接種後の副反応による健康被害に対し、「予防接種法」に基づく医療費や障害年金等の給付など、救済を受けることができます。

2019年4月、改正安全衛生法の施行により「健康情報取扱規程」の作成が義務化されました。

企業が従業員のワクチン接種状況を管理する場合は、同規定と同様に、個人情報保護法に基づいてプライバシーを保護できるようにルールを定め、慎重に対応する必要があります。

また2020年6月に通称「パワハラ防止法」施行により、職場におけるパワーハラスメント防止措置が企業の義務となりました。

接種の推奨がハラスメントとならないためにも、こちらも併せて再確認しておきましょう。

接種しやすい職場環境作りとは

ワクチン接種を希望する従業員に対し、接種しやすい環境を整えるため、企業は休暇や労働時間の取り扱いを検討する必要があります。

政府は、ワクチン接種のための休暇制度などの導入を推奨する理由を2つ挙げ、1.平日にワクチン接種を行い、休日や混雑する時間帯の接種を避けるため、2.接種後の副反応で体調不良となる可能性があるため、としています。

厚生労働省では、職域接種の開始に伴い「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」を更新しました。

ワクチン接種に関する休暇や労働時間の取り扱いについて、接種や接種後の副反応が発生した場合に活用できる特別な有給休暇制度の新設や、既存の病気休暇や失効した年次有給休暇を積み立てて、傷病などで長期療養を要する場合に使用できるように、失効年休積立制度の見直しを勧めています。

年次有給休暇の取得で対応することは、「心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するため」という定義から逸脱するため、おすすめできません。

また接種時間について、勤務時間の中抜けを認め、就業時間の繰り下げを行うことや、接種時間を通常通り労働したものとして扱う、出勤みなしとして対応することは、従業員が任意に利用できるものである限り、接種しやすい環境の整備に適う、としています。

接種時間を労働時間で対応するにあたり、副反応に対する措置を別途検討する必要があるでしょう。

企業の対応としては、安心して接種してもらうためにも、接種後に副反応が出た場合の対応を含め、従業員の希望や意向も踏まえて検討することが重要です。

休暇や休日、労働時間の取り扱いが変更となる場合は、就業規則の変更手続きを忘れずに行いましょう。

ワクチン接種の推奨は、職域接種の有無にかかわらず、企業にとって最も大切な従業員を守り、社会全体の感染症予防対策に繋がります。

基本的な感染症予防対策をしっかりと行った上で、コンプライアンスを遵守した接種方針と規定を策定し、「接種しない、できないことへの差別防止」をはじめ、一丸となって、企業としての責務を果たしていきましょう。

なお各ガイドラインやQ&Aは、状況の変化に応じて補遺版が公表されます。

随時確認した上で企業対応を更新し、感染防止対策を継続して実行していきましょう。

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