出産・育児と仕事の両立を促すための法改正 育児・介護休業法の一部改正のポイント
働きながら子育てを円滑に進めるための環境整備は、働き方改革と少子化対策という、今日の我が国の課題を克服するための政策的な要と位置付けられます。
そのための法律改正が先ごろ行われました。主な改正内容を見ていきます。
2021年6月3日、育児・介護休業法(育児休業・介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)の一部改正が成立しました。
今回の改正は、出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、この出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組の創設、育児休業を講ずるものとなっています。
特に注目すべきは、男性の育児休業取得促進のために柔軟な制度変更が行われることです。
男性育児休業取得率の低迷
政府は、男性の育児取得率について、令和2年5月に閣議決定した少子化社会対策大綱において、「2025年に30%」という高い目標を掲げています。
しかし、男性の育児休業取得率は、わずか7.48%と政府目標と程遠い数値となっています(令和元年度「雇用均等基本調査」)。
男性の育児休業取得が進まない主な理由には、1.業務繁忙に伴う人員不足、2.長期休業しにくい仕事の性質、3.育児休業を取りにくい職場雰囲気、4.収入源などがあり、仕事と職場環境が大きく関係しています。
法改正ではこうした実態に応えるため、新制度の創設や制度変更がなされています。
出生時育児休業の創設
産後6~8週間は、母体保護の観点からも配偶者の協力は必要不可欠です。
現行法でも、いわゆる「パパ休暇」と称して、配偶者の出産後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合には、特別な事情がなくても再度の育児休業の取得が可能です。
改正後は、これまでの「パパ休暇」に代えて、子の出生後8週間の範囲内に、4週間以内の期間を定めて育児休業(出生時育児休業)を取得できることになりました。
この出生時育児休業は、4週間(28日)を限度に、2回に分けて取得することができます。
なお、出生時育児休業の申出は、原則として、休業開始日の2週間前までです。現行の育児休業の申出期限(1か月前)よりも短縮されています。
また、労使協定を締結している場合には、休業開始前に労働者と事業主が個別に合意することで、その合意の範囲で育児休業中に就業することも可能になります。
合意の範囲については、就労可能日等の上限(休業期間中の労働日・所定労働時間の半分など)について、厚生労働省令で定められる予定です。
なお、この改正に伴って、現行の「パパ休暇」は消滅します。
また、出生時育児休業に合わせて雇用保険の保険給付に出生時育児休業給付金が設けられることになりました。
(施行日:公布日から1年6か月以内の政令で定める日)
育児休業の分割取得
現行法では、育児休業の申出は、この出生後8週間以内に父親が取得することを想定し、再取得可能としたいわゆるパパ休暇のほか、特別の事情がない限り同一の子(双子以上も1子扱いとなる)につき、子が1歳に達するまで1回限りで、分割取得することはできません。
しかも、申し出ることのできる休業は連続した一期間の休業です。
今回の改正では、前述の出生時育児休業とは別に、子が1歳に達するまでの育児休業については、配偶者相互に2回まで分割しての取得ができることになりました。
これによって、男性の場合、前述した出生時育児休業を含め4回の育児休業の分割取得が可能になります。
たとえば、妻が産後休業の8週間を終えて職場に復帰し、代わって夫が育児休業を2か月取得。
その後、妻が育休を取得し、さらに妻が職場復帰した後に夫が取得するなど、夫婦交代での育児休業が可能になります(図参照)。
また、現行法では、保育所待機等を理由に、1歳6か月まで育児休業を延長することができ、さらに1歳6か月から2歳までの再延長もできることになっています。
しかし、延長開始日が、各期間(1歳~1歳6か月、1歳6か月~2歳)の初日に限定されているため、各期間開始時点でしか夫婦が交代で育児休業を取得することができませんでした。
今回の改正では、延長の開始日を柔軟化することで、各期間途中でも夫婦交代が可能となりました。
(施行日:公布後1年6か月以内の政令で定める日)
雇用環境の整備・個別の周知等
新たに育児休業の申出や取得を円滑にするための雇用環境整備に関する規定が定められ、事業主には研修・相談窓口の設置等の雇用環境整備が義務付けられました。
雇用環境整備に当たっては、短期はもとより1か月以上の長期の育児休業の取得を希望する労働者が、希望する期間を取得できるように、複数の選択肢のいずれかを選択して事業主が措置を講ずるように配慮することを指針において示す予定です。
また、現行法では、事業主に対して、妊娠・出産(本にまたは配偶者)の申出をした労働者に対する休業の個別周知・意向確認は努力義務とされていましたが、今回の法改正で義務となりました。
今後は、労働者または配偶者が妊娠または出産した旨等の申出をしたときに、当該労働者に対し新制度および現行の育児休業制度等を周知するとともに、これらの制度の利用意向を確認するための措置の実施が義務となります。
個別の周知方法は面談での制度説明、書面による制度についての情報提供等の複数の選択肢からいずれかを選択して措置を講ずることになります。
また、労働者の育児休業の取得意向の確認については、育児休業の取得を控えさせるような形での周知および意向確認を認めないことを指針において示す予定となっております。
(施行日:令和4年4月1日)
そのほか、常時雇用する労働者の数が1,000人を超える企業については、育児休業の取得状況を公表することが義務となります。
また、有期雇用労働者の「継続雇用期間1年以上」という育児・介護休業取得要件が廃止されます(労使協定締結の場合を除く)。