疾病治療と就労の両立支援 職場における治療と仕事の両立支援の取り組み方
心身に何らかの疾患を抱えながら働く労働者が増えています。
治療と就労の両立は簡単ではありませんが、条件が整えば就労が治療にも効果を及ぼすことも期待できるでしょう。
両立支援の実現を見据えた厚生労働省のガイドラインを中心に、企業としての考え方を確認します。
日本の労働人口の約3人に1人が、何らかの疾患を抱えながら働いています。
定年延長等に伴う労働力人口の高齢化やメンタル不調の増加などに伴い、職場において病気を抱えながら働く労働者は、今後も増えることが予測されます。
「治療と職業生活の両立支援対策事業」(平成25年度厚生労働省委託事業)において、企業を対象に実施したアンケート調査によると、疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%となっています。
また、「2019年国民生活基礎調査」によれば、仕事を持ちながら、がんの治療で通院している人数は、44.8万人(2016年の調査では36.5万人)にも上っています。
企業としても、働きながらも病気療養のための通院ができる仕組みづくりや、心身への負担を考慮した配置転換など、病気を抱える従業員が治療と仕事を両立できる環境整備に取り組むことが必要となってきています。
こうした現状を踏まえて、厚生労働省も「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(以下、ガイドライン)を作成・公表するなどし、企業において病気を抱えながら働く従業員が治療と仕事の両立を図れるような施策を講ずることができるサポートをしています。
治療と仕事の両立を取り巻く現状と課題
先の「治療と職業生活の両立等の支援対策事業」のアンケートによれば、病気を抱える労働者の92.5%が就労継続を希望し、現在仕事をしていない人でも70.9%が就労を希望しているなど、治療と仕事の両立支援に対するニーズは非常に高くなっています。
しかし企業として、労働者の治療と仕事の両立の実現を図るにあたっては、多くの事業者が重症化・再発予防や適正配置等、健康管理や労務・作業管理が課題となります。
東京都が実施した「がん患者の就労等に関する実態調査」(平成26年5月)によれば、従業員が私傷病になった際、当該従業員の適正配置や雇用管理などについて、89.5%の企業が対応に苦慮したと回答しています。
現在では、医療技術の進歩などにより、いわゆる三大疾患についても生存率が向上しており、病気になった場合でも、すぐに退職をし、治療に専念するのではなく、治療を継続しながら仕事を続ける人が増えてきているのが特徴です。
両立支援を進める上での注意点
ガイドラインに基づき治療と仕事の両立に向けたさまざまな支援策を検討する上での注意点としては、次のようなものがあります。
(1)労働者の注意点
治療と仕事の両立支援は、労働者の私傷病に関するものなので、基本的には、労働者本人からの支援の申し出をきっかけに取り組むことになります。
したがって、本人または家族などを介して企業と医療機関が情報をやり取りし、最終的に具体的な就業上の支援措置や配慮すべき内容を決めることになります。
具体的にはまず、会社として、労働者の業務の状況(職務上最低限必要となる作業や要件、勤務時間、職場環境等)を記載した勤務情報提供書などを作成し、主治医に提出することになります。
主治医は、その勤務情報提供書を参考にして、労働者の業務の状況を踏まえ、就業継続の可否、就業上の措置および治療に対する配慮に関する意見書を作成し、労働者を介して会社に提供します。
会社は、主治医の意見書をもとに、産業医の意見を勘案し、労働者の就業継続・職場復帰の可否、就業継続・職場復帰する場合の就業上の措置や配慮事項について検討し、両立支援プランを作成することになります。
したがって、両立支援を必要とする労働者は、支援に必要な情報を収集して会社に提出しなければなりません。
(2)企業の注意点
会社は、労働者からの申し出が円滑に行われるよう、まず、衛生委員会などで調査審議を行った上で、両立支援に関する会社としての基本方針を明確にします。
両立支援の必要性やその意義を全社的に共有し、治療と仕事の両立を実現しやすい職場風土を醸成することが求められます。
また、1.両立支援のための企業内ルールの作成、2.両立支援に関する意識啓発のための研修の実施、3.相談窓口の設置などの環境整備も必要となります。
治療と仕事の両立支援にあたっては、病状やその症状、治療方法などは人によって異なるので、個別にどのような対応をすべきかを検討しなければなりません。
特に仕事を続けながら治療する労働者に対しては、仕事内容や仕事量によって疾病が悪化したり、再発したりしないように、本人の意向や主治医の意見を聞きながら見直すことも必要となります。
そのためには、労働者が治療しながら就業継続が可能である場合には、疾病が増悪することがないように就業上の措置を決定し、実施する必要があります。
その際には必要に応じて、具体的な措置や配慮の内容およびスケジュールなどについての両立支援プランを策定することも検討すべきでしょう。
(3)個人情報の保護
両立支援を行うためには、症状、治療の状況等の疾病に関する情報が必要となりますが、これらの情報は機微な個人情報であることから、労働安全衛生法に基づく健康診断において把握した場合を除いては、事業者が本人の同意なく取得はできません。
また、健康診断または本人からの申出により事業者が把握した健康情報については、取り扱う者の範囲や第三者への漏洩の防止も含めた、適切な情報管理体制の整備が必要となることに注意しなければなりません。
助成金の活用
会社が、労働者の傷病の特性に応じた、治療と仕事の両立支援制度を導入または適用した場合に、制度導入に要した費用についての助成金(「治療と仕事の両立支援助成金」)が支給されます。
2021年度は「環境整備」と「制度活用」の2つの新規コースが設けられました。
環境整備コースは、事業者が両立支援コーディネーターの配置と勤務制度や休暇制度などの導入を新たに行った場合に1事業者あたり20万円、制度活用コースは、事業者が両立支援コーディネーターを活用し、両立支援制度を用いた両立支援プランを策定し、実際に適用した場合に同20万円を助成することとしています。