2021年度地域別最低賃金改定 最低賃金の引上げの影響と対応策
9月に入り、厚生労働省より各都道府県の最低賃金が公表されました。
全国平均で28円の引上げを目安とした最低賃金。過去最大の引上げ幅が、企業に与える影響とその対応策について解説します。
最低賃金制度の概要
最低賃金制度とは、1959年に制定された最低賃金法に基づき、国が賃金の最低限度額を定め、使用者に最低限度額以上の賃金の支払いを求める制度です。
最低賃金には、都道府県ごとに定められた地域別最低賃金と、特定の産業を対象に定められた特定(産業別)最低賃金の2種類があります。
地域別最低賃金は、正社員はもとよりパート・アルバイトなど雇用形態や呼称の如何を問わず、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用され、セーフティーネットとしての役割を担っています。
一方、特定(産業別)最低賃金は、特定産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます。
特定(産業別)最低賃金は、地域別最低賃金よりも金額水準が高く、3月末現在、全国227件の産業に適用されています。
使用者が最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には、その差額の支払いと罰金が科されます。
地域別最低賃金は、最低賃金法により50万円以下の罰金、また特定(産業別)最低賃金に対しては、労働基準法により30万円以下の罰金が定められています。
最低賃金の特例として、使用者が都道府県労働局長の許可を得ることを条件に、「精神又は身体の障害により著しく労働能力が低い者」など、最低賃金法第7条に定める特定の労働者に対しては減額が認められています。
最低賃金の決定方法
地域別最低賃金は、全国的な整合性を図るため、毎年7月に中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に対し、改定額の目安についての答申が行われます。
各地方最低賃金審議会はこの答申を踏まえて調査、審議の上、答申を行い、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。
その決定額が先頃公表され、10月に発効されます。
地域別最低賃金の決定基準は、1.労働者の生計費 2.労働者の賃金 3.通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して定められ、生活保護に係る施策との整合性に配慮すること、とされています。
一方、特定(産業別)最低賃金は、関係労使の申し出に基づき、最低賃金審議会が必要と認めた場合に、改定・決定されます。
最低賃金引上げの動向
2016年の政府による「一億総活躍プラン」を皮切りに、経済の好循環の実現に向けて、最低賃金は、4年連続で約3%ずつ引上げられてきました。
厚生労働省によると、改定後の最低賃金を下回る労働者の割合を示した「影響率」は、年々増加していることが報告されています。
最低賃金の引上げに伴う「影響率」の上昇は、賃上げを必要とする労働者の増加を示しており、企業にとって、総人件費の負担が大幅に増加していることを意味しています。
2020年、コロナ禍により業況が厳しいなか、中央最低賃金審議会は、現行水準の維持が適当として、初めて改定額の引上げ目安を示さず、地域別最低賃金の上昇は低水準に留まりました。
2021年になると、危機的な経済情勢を立て直す手段のひとつとして、政府は大幅な最低賃金の引上げに踏み込み、全国平均で28円を目安に引上げ、930円となりました。
28円の引上げ額は時給で示す現在の方式となってから過去最大で、上げ幅は3.1%です。
非正規労働者などの賃金水準を底上げすることにより、賃金格差の是正や雇用の安定、消費の拡大といった企業の生産性向上による経済の活性化が期待されています。
企業に与える影響と支援施策
最低賃金の引上げによる大幅な人件費の増加は、雇用そのものに大きな影響を与えかねません。
人件費を抑えるための雇用削減や、総人件費の調整による昇給や賞与の削減は、労働者のモチベーションを低下させ、生産性の低下や離職の連鎖を生む可能性があります。
また、人件費対策が商品価格の値上げに反映された場合は、物価の上昇を引き起こし、消費の低迷を招く恐れもあります。
更には、人件費の上昇と値上げの悪循環により業績が悪化し、倒産や廃業に追い込まれる企業が増加する可能性も十分に考えられます。
政府は、最低賃金の引上げに伴う様々な影響を想定し、中小企業や小規模事業者を支援するために、幅広く施策を展開しています。
経済産業省による中小企業向けの補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」では、様々な中小企業支援施策が紹介され、支援者や支援機関との連携も行っています。
助成金と補助金の活用
「業務改善助成金」は、事情業内で最も低い賃金を一定額以上引上げ、更に生産性向上に役立つ設備投資などを行う中小企業で小規模事業者に対して、その費用の一部を国が助成するものです。
設備投資には、機械設備やコンサルティングの導入、人材育成や教育訓練、POSシステムなどの導入などが含まれます。
「人材確保等支援助成金」は、労働環境の向上などを図り、人材の確保や定着に向けた制度づくりを検討する際に活用できます。
テレワークコースや雇用管理制度助成コースなど様々なコースがあるため、自社のニーズに合わせて活用することが可能です。
2021年度より、コースの廃止や新設など制度が大きく変更されているので注意が必要です。
「働き方改革推進支援助成金」には、1.労働時間短縮・年休促進支援コース 2.勤務間インターバル導入コース 3.労働時間適正管理推進コース 4.団体推進コースの4つのコースがあります。
申請にあたっては、昨年度から取扱いが一部変更となっていますので、事前に確認しておきましょう。
経済産業省管轄の「事業再構築補助金」は、新しい時代の経済、社会の変化に対応するため、事業再構築に取り組む中小企業などを支援するものです。
最低賃金枠が新設され、通常枠より補助率が高く、採択率も優遇されています。
コロナ禍の影響が長引くなか、人件費の増加に対応するには、労働時間の短縮や業務の効率化により、生産性向上を図ることが必須です。
支援施策を積極的に活用して労働環境を整備するとともに、賃金水準を底上げして雇用の維持に努めるという、発想の転換が求められています。
最低賃金のチェック方法
最後に、支払われている賃金が最低賃金額以上になっているかのチェック方法を確認しておきましょう。
対象となる賃金額は、時間額に換算して、適用される最低賃金額と比較する必要があります。
最低賃金の対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。
賞与や残業代、結婚手当など臨時に支払われる手当や家族手当、通勤手当は対象外となります。
例として、日給制と月給制の組み合わせの換算方法を確認しましょう(下の計算式参照)。
基本給が日給制で、1日当たり4,600円、各種手当が月給制で、職務手当が月25,000円、通勤手当が月5,000円支給される場合を想定しています。
1.まず、基本給の時間換算額は、、基本給を1日当たりの労働時間数で割ると(4,600円÷8時間)、575円となります。
2.次に、対象となる手当は職務手当のみです。
時間換算額は、年間の職務手当(25,000円×12=300,000円)を、年間の労働時間数(250日×8時間=2,000時間)で割ることにより算出でき、150円です。
3.時間換算額の合計は、575円と150円の合計725円となり、△△県の最低賃金800円を下回ることがわかります。
変化を受容して「誰一人として取り残されない包括的な社会」の実現を目指し、皆で力を合わせていきましょう。
(厚生労働省ホームページより一部抜粋)
基本給 4,600円
M月の労働日数 20日
職務手当 25,000円
通勤手当 5,000円
合計 122,000円
労働日数 / 日 8時間
年間労働日数 250日
△△県の最低賃金 800円