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20年ぶりに改定された『過労死』認定基準の改定と企業に及ぼす影響

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投稿日:2021年12月1日(水)

現行の過労死認定基準は2001年に定められたものです。

近年の働き方の多様化や職場環境の変化および最新の医学的知見を踏まえた「脳・心臓疾患の労災認定基準に関する専門検討会」の報告書に基づき、20年ぶりの見直しが行われました。

過労死等防止対策推進法では、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害」(第2条)を過労死等と定義し、その防止対策を推進し、毎年11月を過労死等防止啓発月間としています(第5条)。

厚生労働省は、この定義に基づき、労働者に発生した脳血管疾患(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など)および虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)を労働災害と認定するための「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」(いわゆる過労死認定基準)を定めていますが、令和3年9月14日に20年ぶりに改正・公表されました。

今回の改正においては、いわゆる過労死ラインは現状維持とはなったものの、過労死ラインを超えなくても労災認定される場合があること、労働時間以外の負担要因が新たに追加されたことが重要なポイントです。

過労死ラインの見直し検討

過労死等の認定要件となる「業務による過重負荷」の判断においては、労働時間の長さなどで表される業務量や、業務内容、作業環境などを具体的かつ客観的に把握し、総合的に判断することになります。

具体的には、次の3つの認定要件に基づきます。

1.発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的および場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと

2.発症に近接した時期において、特に過重な業務(短期の過重業務)に就労したこと

3.発症前の長時間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(長期間の過重業務)に就労したこと

これら認定要件のうち、3.の長時間の過重業務に係る労働時間の基準が「過労死ライン」と言われるもので、以下の3通りの基準が示されています。

1.発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合

2.発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合

3.発症前1カ月間ないし6カ月間にわたり1カ月当たり、おおむね45時間を超える時間外労働が認められる場合

これらの基準を超える労働時間が長くなるほど業務と発症の関連性が強いものと評価され、労災認定されやすくなります。

今回の改正にあたり、前述の労働時間の基準の「80時間」を「65時間」に引き下げることも検討されましたが、最終的には現行ラインを維持することとなりました。

労働時間以外の負荷要因

これまでの認定基準でも、労働時間以外の負荷要因も考慮されることにはなっていましたが、今回の改正により、新たに前述の過労死ラインとなる1.または2.の時間外労働の水準に至らないまでもこれに近い実態があり、加えて一定の労働時間以外の負荷が認められる場合は、総合的に評価して業務と発症との関連性が強いと評価される場合は、労災認定することを明確化しました。

労働時間以外の負荷要因としては、現行では勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、交代制勤務、深夜勤務など)、日常的に緊張を強いられる心理的負荷を伴う業務、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務)、作業環境(温度、騒音など)が明示されていました。

今回の改正では、勤務時間の不規則性について、新たに「休日のない連続業務」、「勤務間インターバル時間がおおむね11時間未満の勤務」が負荷要因として追加されました。

また、負荷要因として、新たに「身体的負荷を伴う業務」が追加されるとともに、現行の「精神的緊張を伴う業務」については内容を拡充して「心理的負荷を伴う業務」となりました。

「心理的負荷を伴う業務」については、「日常的に心理的負荷を伴う業務」(危険回避責任がある業務、極めて危険な物質を取り扱う業務)と「心理的負荷を伴う具体的出来事」(仕事の失敗、過重な責任発生、パワハラ、セクハラなど)に区別され、その負荷の程度が評価対象として追加されました。

「身体的負荷を伴う業務」については、業務内容のうち重量物の運搬作業、人力での掘削作業などの身体的負荷が大きい作業の種類、作業強度、作業量、作業時間、歩行や立位を伴う状況などが評価対象として追加されました。

対象疾病に「重篤な心不全」

これまでの認定基準においては不整脈が一義的な原因となった心不全症状等について、「心停止(心臓性突然死を含む)」に含めて取り扱うこととされていました。

しかし、心停止とは異なる病態である心不全を「心停止(心臓性突然死を含む)」に含めて取り扱うことは適切でなく、また、不整脈によらず、心筋症等の基礎疾患を有する場合にも、業務による明らかな過重負荷によって当該基礎疾患が自然経過を超えて著しく憎悪し、重篤な心不全が生じることが考えられたため、不整脈によるものも含め「重篤な心不全」が認定対象疾病に追加されました。

企業対応

このように厳しくなった認定基準に対応するためには、企業としても長時間労働・過重労働を減らし、過労死等の防止対策をより一層強化することが必要です。

そこでまず重要なのが、従業員の労働時間を適正に把握し、過労死ラインに抵触するような場合には指導を行うなどの対応が必要です。

また、過労死や健康障害を防止するには、適正な勤務間インターバル制度の導入や柔軟な有給休暇の取得などによって休息時間を確保し、従業員が心身をリフレッシュできる体制を整えることです。

そして、従業員が自身の不調に気付いたときに相談できる窓口を設置するなどの職場環境体制を整えることも必要でしょう。

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