2022年4月から成年年齢の引き下げを踏まえて確認 未成年者を雇用する場合の注意点
成年年齢を18歳に引き下げるとする「民法の一部を改正する法律」が2022年4月1日から施行されます。
当面、労働関係諸法令に及ぼす影響は少ないものの、人事・労務管理面において未成年者等の法規制がどのようなものかを確認しておきましょう。
日本の成年年齢は、1876年(明治9年)の太政官布告以来、「20歳」とされてきましたが、平成30年の民法の一部改正により、「20歳」から「18歳」に引き下げられ、2022年4月より施行されることになりました。
民法の定める「成年年齢」とは、親権に服することなく、単独で法律行為ができる年齢のことをいいます。
今回の改正によって、それを引き下げることは18歳、19歳の若者が自らの判断によって人生を選択することができる自己決定権を尊重する環境を整備するとともに、その積極的な社会参加を促し、社会を活力あるものにする意義を有するものと考えられます。
また、現在、女性の婚姻開始年齢は16歳、男性は18歳と異なっていますが、今回の改正により男女ともに18歳に統一されることになりました。
今回の成年年齢の引き下げに伴い、年齢要件を定める他の法令についても、必要に応じて18歳に引き下げるなどの改正が行われています。
ここでは、今回の改正の影響は少ないとされているものの、今後の影響を踏まえて現行の労働基準法等、人事・労務に関連する法律において成年年齢未満(未成年者)の保護にどのような規制があるのかをまとめることとします。
労働基準法への影響
飲食・サービス業など、労働力確保が特に困難な業種においては、20歳未満の大学生や高校生をアルバイトで使用することが多くあります。
労働基準法では、20歳未満の労働者を年齢によって、「未成年者」(満20歳未満)、「年少者」(18歳未満)、「児童」(満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで)に区分し、労働時間や就業内容について、成年年齢に達している労働者とは異なる制限を設け、その保護を図っています。
会社がこれに違反すると罰則・罰金が課せられる場合がありますので注意しなければなりません。
1.使用できる最低年齢
労働基準法では、「使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで使用してはならない」と労働者として働かせることができる最低年齢(いわゆる中学卒業者)を定めています(労基法第56条)。
例外的に認められているのは、労働基準監督署長の許可を条件に満13歳以上で児童の健康および福祉に有害でない非工業的業種(農林、畜・水産業、教育・郵便・通信業等)に限られています。
また、子役としての就業などを必要とする映画・演劇の事業に限っては、満13歳未満の児童も修学時間外での労働が可能です。
2.労働契約の締結
未成年者については、親権者や後見人が本人に代わって労働契約を締結することは禁止されており、また親権者や後見人が代わって賃金を受け取ることも禁止されています(労基法第58条、第59条)。
つまり、未成年者といえども、労働契約は未成年者本人と締結しなければならず、賃金も未成年者自身に支払わなければなりません。
ただし、親権者や後見人および行政官庁は、会社と未成年者が締結した労働契約が未成年者に不利であると認めた場合、その労働契約を将来に向かって解除することができます。
これは、親の承諾なく働くことはできるけれども、親が我が子にとって不利な条件であると判断した場合は、辞めさせることができるということです。
したがって、未成年者を使用する場合には万一に備えて、保護者からの同意書または承諾書などをとっておくなどの対応が必要です。
今回の成年年齢の引き下げにより、この保護者の労働契約の解除権が18歳に引き下げられるなどの影響はありませんが、将来的には議論されるところかと思われます。
3.年齢証明書の備え付け等
会社は、年少者を使用する場合、その年齢を証明する公的な書面を備え付けなければなりません。
一般には、市区町村の窓口で住民票の記載事項のうち、年齢に関する部分のみを証明した戸籍証明書または年齢証明書の交付手続をして発行してもらうことになります。
本人以外の事項や目的外の事項が記載されている住民票、戸籍抄本などは、プライバシー上の問題がありますので、これらの書類の提出を求めるべきではありません。
コンビニや飲食店などで高校生などをアルバイトで雇用している場合、この年齢証明書がないまま使用していることがあり、労基法第57条違反となりますので注意が必要です。
4.労働時間等の制限
会社は、年少者に対して、原則として、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超えて残業をさせたり、深夜労働(午後10時以降午前5時まで)をさせたり、法定休日(週1日、または4週4日)に労働させたりすることはできません。
コンビニなどで、高校生のアルバイトなどを使用している場合は注意が必要です。
社会保険の影響
現在、国民年金の1号被保険者となるのは、「20歳以上」です。
2015年9月の自民党の政務調査会における「成年年齢に関する提言」では、国民年金の加入・保険料納付義務を満18歳以上に引き下げることについて議論されています。
今後、仮にこの年齢が「18歳以上」に引き下げられた場合には、これまで加入義務がなかった18歳・19歳の人々にも加入義務および保険料の納付義務が生じることになります。
ただし、現行法でも、学生については、「学生納付特例制度」が設けられており、ほとんどの大学生、専門学校生などは収入要件を満たせば在学中の保険料納付猶予が受けられます。
したがって、成年年齢が引き下げられ、この制度の適用を受けると、将来、猶予された保険料を一定期間後に追納する際、保険料に利子分を上乗せして納付しなければならなくなり、結果的に負担額が増えると想定されます。
今回の成年年齢の引き下げによる国民年金制度への影響はありませんが、少子高齢化や年金の受給開始時期の最長75歳までの繰り下げなどを踏まえると、将来的には国民年金への加入及び保険料納付の義務も18歳からとなることが予想されます。