【2022年4月施行】在職老齢年金等老齢年金の改正と定年再雇用の働き方
2020年5月に成立した年金制度改正法(年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律)が、2022年4月から施行されました。今回は、高年齢者を雇用する中小企業の賃金政策の一つとして改正された老齢年金について、その仕組みや調整方法と併せて、定年後の再雇用制度について考えます。
法改正の目的とその背景
少子高齢化が急速に加速し、労働力が減少するなか、定年延長や継続雇用により高年齢者の就業促進が図られ、従来よりも長期間にわたり、多様な形で働くことが求められています。
企業にとっても、定年を迎えた従業員の活用は、組織経営に欠かせない一方で、組織の人員計画や総人件費の増加といった人事問題と直結しています。
厚生労働省年金局「年金制度に関する総合調査」(2019年)によると、年金の受給対象者である従業員の中には、受給額調整のために労働日数や労働時間数を制限される人もいるなど、年金制度の在り方が少なからず就労に影響を与えていることが確認されています。
今回の改正では、こうした社会経済情勢の変化が年金制度に反映されました。
年金を受給しながら就労する高年齢者が、働くモチベーションを保ち、長く働き続けることができるように、高齢期における経済基盤の充実を図ることを目的としています。
老齢厚生年金は、厚生年金保険の加入者に対して、老後の保障として給付される公的年金です。受給資格期間が10年以上ある場合、原則として65際になったときから、終身にわたり受給することができます。
また、「特別支給の老齢厚生年金」は、60歳から64歳までの期間の受給可能な年金であり、老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられた際に特別措置として設けられたものです。
現在、受給開始年齢は生年月日に応じて段階的に引き上げられており、すべての人が受給できるわけではありません。
特別支給の老齢厚生年金は、今後男性は2025年、女性は2030年に受給開始年齢の引き上げが完了し、以降一律65歳からの支給となります。
在職老齢年金の仕組み
在職老齢年金とは、60歳以降、厚生年金に加入して働きながら受給することができる老齢厚生年金の額(以下、基本月額)と、給与や賞与の額(以下、総報酬月額相当額)の合計が支給停止される基準(以下、支給停止基準額)を超えた場合、その合計額に応じて、年金額の一部または全額が支給停止となる場合があります。
この制度は、60歳以上65歳未満と65歳以上では、計算方法などの仕組みが異なります。
老齢年金制度の見直し1.
2022年4月より、在職老齢年金制度について2つの法改正がありました。
1つ目は、60歳以上65歳未満の在職老齢年金の「支給停止基準額の引き上げ」です。
これは、基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円を超えた場合、その合計額額に応じて年金額の一部または全額が支給停止となっていました。
今回の改正では、支給停止基準額が、現行の28万円から47万円に引き上げられました。
ただし、該当者は限られており、男性は1961年4月1日まで、女性は1966年4月1日までに生まれた人です。
なお、65歳以上の在職老齢年金については、従来の支給停止基準額である47万円に変更はありません。
2つ目は、65歳以上の在職老齢年金受給者に対する「在職定時改定の新設」です。
厚生年金の被保険者は、老齢厚生年金を受給しながら就労する場合、加入条件を満たす限り、70歳到達時に、年金額をまとめて改定するため、就労を継続した加入実績がすぐに年金額に反映されない仕組みとなっています。
在職定時改定の導入により、年金額の改定は、毎年1回定時に行われ、10月分の支払いから反映されることになります。
ただ在職定時改定では、毎年年金支給額が引き上げられるため、当初は支給停止基準額である47万円を超えていなくても、ある時点で支給停止や減額の対象となる可能性があるため、注意が必要です。
老齢年金制度の見直し2.
また今回の改正により、公的年金である国民年金や厚生年金の受給開始時期の選択肢が拡大されました。
これまで、受給資格者は、希望すれば60歳から70歳の間で自由に受給開始年齢を選ぶことができました。
65歳より早く受給を始めた場合(繰り上げ受給)、繰り上げ請求をした月から65歳到達月の前月までの月数に応じて、年金額が減額されます。
2022年4月以降、1月あたりの減額率は、これまでの5%(最大30%)から、4%(最大24%)に変更されます。
一方、65歳より遅く受給を始めた場合(繰り下げ受給)には、65歳から繰り下げた月数によって増額した年金を、生涯にわたり受給することができます。
2022年4月以降は、繰り下げの上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました。
増額率は変わらず、1月あたり7%で、最大で84%となっています。
定年後の働き方と企業の対応
1994年の高年齢者雇用安定法の改正以降、定年を設ける場合は、60歳以降とすることが定められています。
2013年には、定年年齢を65歳未満に定めている企業に対し、65歳までの定年の引き上げや継続雇用制度の導入、定年制の廃止のいずれかの措置を実施することが義務化されました。
更に2021年には、高年齢者就業確保措置として、70歳までの定年年齢の引き上げや継続雇用制度の導入、定年制の廃止などの措置が企業の努力義務となっています。
継続雇用制度のひとつである再雇用制度は、定年に達した労働者を一旦退職させ、改めて労働条件を提示し合意の上で、希望者全員を雇用する制度です。
雇用形態や業務内容など労働条件の変更に合わせて、賃金を一定割合減額して人件費の調整を行うことが可能です。
しかし「70歳雇用時代」に向けて、個人が年金の受給方法を自由に選択できる今、年齢に関係なく、能力や意欲のある人が働くモチベーションを維持したまま就労できる環境が求められています。
企業においては、組織体制における年齢構成の変化を想定して、高年齢者に求める役割を設定し、考課制度や賃金制度といった人事制度の見直しから始めることが重要です。
その上で、従業員自らが定年後のキャリアプランを描くことができるように、定年前後の説明会を開催することが大切です。
また再雇用契約の際には、定年後のライフプランをヒアリングし、年金と賃金の調整を個別に対応するなど、企業側から働き方の選択肢を提案できれば理想的です。
企業における生産性の向上は、いかに従業員一人ひとりのワークライフバランスを大切にしながら、その能力を最大限に活かすことができるか、に懸かっています。
今こそ、企業の対応力が試されているのではないでしょうか。