採用活動に影響を与える 求人不受理となる対象企業の拡大と対応策
ハローワークや職業紹介事業者等が受ける求人について、一定の労働関係法令違反のある求人者からの求人の申込みを受理しないことができることになっています。
労働者の確保が厳しい中で採用活動への影響を踏まえて、求人不受理とならない社内体制づくりを整備することが必要です。
新型コロナの感染拡大により大きく低下していた有効求人倍率ですが、急速に回復してきています。
厚生労働省が公表した令和4年の一般職業紹介状況による有効求人倍率(求職者1人あたりについて、何件の求人があるかの指標)の動向を見ると、1月が1.20倍、2月と3月が1.21倍と採用市場は回復しつつあります。
その一方で就職後の求人トラブルを未然に防止するために、企業の求人活動における法令遵守がこれまで以上に求められるようになってきています。
求人の原則と求人不受理
職業安定法では、ハローワークや職業紹介事業者等(大学や特定地方公共団体等を含む。以下ハローワーク等)は、求人の申込みは全て受理しなければならないとされ、原則として全ての求人を取り扱うことが義務付けられています。
しかし例外として、
1.求人の申込み内容が法令に違反する求人
2.賃金、労働時間その他の労働条件が通常のものと比較して著しく不適当である求人
3.労働関係法令に違反し行政処分、企業名の公表等の措置が講じられた者からの求人
4.従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件等の明示が行われない求人
5.暴力団等の関与する求人
6.正当な理由なくハローワーク等が求める報告に応じない求人については申込みを受理しないことができるとされます。
これを「求人不受理」と言います。
求人不受理の対象となる法令
現在、求人不受理の対象となる法律および関連条項は、下の表の通りです(令和4年3月31日)。
今後、労働関係法諸法令の改正により新たな規制が追加されると、それらに対応して増えていく傾向にあります。
育児・介護休業法違反の追加
2021年6月に男性の育児休業の促進を図るための育児・介護休業法が改正され、今年4月1日と10月1日に段階的に施行されます。
その中でいくつかの義務や不利益取扱いの禁止条項が加えられました。
それに伴い職業安定法施行令も改正され、ハローワーク等での求人不受理の対象として以下の違反について追加されることになりました。
なお、育児・介護休業法の施行に合わせて段階的に施行されることになります。
1.本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たことを理由とした不利益取扱いの禁止(4月1日施行)
2.出生児育児休業の申し出に関する事業主の雇用管理上の義務(10月1日施行)
3.出生時育児休業の申し出をしたこと等を理由とした不利益取扱いの禁止(10月1日施行)
これらの規定に違反し、法違反の是正を求める勧告に従わず、企業名を公表された場合は求人不受理の対象となります。
したがって、違反事実が発生することなどがないように法改正に則して育児・介護休業規定を改定するほか、社内体制を整備する必要があります。
求人不受理の流れと対応策
求人不受理は表の労働関係諸法令への違反の状態があった場合に直ちに行われるものではありません。
例えば、労働基準法および最低賃金法の規定のうち、賃金や労働時間等に関する対象条項の違反に対して、
1.過去1年間に2回以上同一条項の違反について是正指導を受けていること
2.対象条項違反により送検され、企業名が公表された場合などが求人不受理の対象となります。
また、職業安定法、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法違反については、法違反の是正を求める勧告に従わず、企業名が公表された場合が求人不受理の対象となります。
求人不受理の期間は、法違反に対して、是正勧告を受けた場合、企業名が公表された場合、書類送検された場合で、それぞれ異なります。
労働基準法および最低賃金法違反で前述の1.に該当し、是正勧告を受けた場合には、是正されるまでの期間に加えて、是正後さらに違反を重ねないことを確認する期間として、6か月が経過するまでの期間となります。
送検され企業名が公表された場合には、原則として、送検された日から1年経過するまでとなります。
職業安定法、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法違反については、法違反が是正されるまでの期間および是正後6か月を経過するまでの期間となります。
このように、求人不受理は法違反があっても即座に行われるわけではないので、是正勧告や指導に従って改善し、行政官庁に報告する対応が必要となります。
なお、職業紹介事業者は、求人の申込みが前段の求人申込を受理しないことができる例外事項1.~6.に該当する事実があるか否かを求人者に対して自己申告を求めるべきとされており、職業安定法では、求人者は、職業紹介事業者からその求めがあったときは、正当な理由がない限り、応じなければなりません。
求人者に自己申告を求め、それを拒否された場合には、求人の申込みを受理しないこともできます。
違反すると求人不受理の対象となる法令
法律 | 主たる対象事項 | 対象条文(◯内項) |
労働基準法 | 男女同一賃金、強制労働の禁止、労働条件明示、賃金、労働時間、休憩・休日・年次休暇、年少者、妊産婦関係 ※労働者派遣法第44条(第4 項を除く)の規定により適用される場合を含む |
第4条、第5条、第15条①③、第24条、第37条①④、第32条、第36条⑥、第39条①②、第141条③、第34条、第35条①、第39条①②⑤⑦⑨、第56条①、第61条①、第62条①②、第63条、第64条2(第1号)、第64条3①、第65条、第66条、第67条② |
最低賃金法 | 最低賃金の支払い | 第4条① |
職業安定法 | 労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、求人の申込み時の報告、委託募集、労働者募集に係る報酬受領 ・供与の禁止、労働争議への不介入、秘密を守る義務 |
第5条3①②③、第5条4、第5条5③、第36条、第39条、第40条、第42条、第42条3において読み替えて準用する第20条、第51条 |
男女雇用機会均等法 | 性別を理由とする差別の禁止、性別以外の事由を要件とする措置の禁止、結婚・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い、セクハラ、妊娠中、出産後の健康管理に関する措置等 | 第5条から第7条、第9条①から③、第11条①、第11条2①、第12条及び第13条①、第30条違反公表の対象規定 |
育児・介護休業法 | 育児休業、介護休業、子の看護休暇及び介護休暇の申出に応じる義務、育児休業等を理由とした不利益取扱いの禁止、所定外労働の制限、所定外労働をしなかったことを理由とした不利益取扱いの禁止、育児を理由とする時間外労働の制限、時間外労働をしなかったことを理由とした不利益取扱いの禁止、育児を理由とする深夜業の制限、深夜業をしなかったことを理由とした不利益取扱いの禁止、所定労働時間の短縮措置、所定労働時間の短縮措置を理由とした不利益取扱いの禁止、職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置、労働者の配置に関する配慮、セクハラ等に関する相談を行ったこと等を理由とする不利益取扱いの禁止、紛争解決援助に係る不利益取扱いの禁止等 ※労働者派遣法第47条の3の規定により適用される場合を含む。 |
第6条①、第10条(第16条、第16条の4及び第16条7において準用する場合を含む)、第12条①、第16条3①、第16条6①、第16条8①(第16条9①において準用する場合を含む)、第16条10、第17条①(第18条①において準用する場合を含む)、第18条2、第19条①(第20条①において準用する場合も含む)、第20条2、第23条①〜③まで、第23条2、第25条、第26条及び第52条4②(第52条5②において準用する場合を含む)、第56条2違反公表の対象規定 |
労働施策総合推進法 | パワハラ防止に関する雇用管理上の措置義務、パワハラに関する相談を行ったこと等を理由とする不利益取扱いの禁止 ※労働者派遣法第47条の4の規定により適用される場合を含む。 |
第30条の2①②(第30条の5②、第30条6②において準用する場合を含む) |