ジェンダー格差を是正するための取り組み 男女間賃金格差の開示義務とその対応
2022年7月、「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」に関する構成労働省令の改正により、常用労働者数301人以上の企業に対し、「男女の賃金の差異」の公表が新たに義務づけられました。
その具体的な内容と準備・対応について見てみましょう。
男女間賃金格差解消への道のり
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、日本のおける男女間賃金格差は、長期的に見ると縮小傾向にありますが、先進諸外国と比較すると、その格差は依然として大きい状況にあることが報告されています。
日本において、労働者が性別により差別されることなく、その個性と能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することは、長年にわたり重要な課題となっています。
その対策として1985年に男女雇用機会均等法が施行され、企業における均等待遇の法的枠組みが整備されました。
2008年には、学識経験者による「変化する賃金・雇用制度の下における男女間賃金格差に関する研究会」が発足しました。
報告書では、男女間賃金格差の要因で最も大きいのは、役職の違い(管理職比率)であり、次いで勤続年数の差異であるとされています。
2016年には「女性活躍推進法」が施行されました。具体的な施策として、一定規模の企業に対し「一般事業主行動計画」(以下、行動計画)の策定・周知と、情報公表が義務づけられています。
法改正の具体的内容
2019年には、女性活躍の取り組みをさらに推進するため、義務の対象拡大などを内容とする改正法が交付されました。
この改正女性活躍推進法により、2022年4月1日以降は、これまで努力義務であった「常時雇用する労働者数(以下、常用労働者数)101人以上300人以下の事業主」も、新たに義務の対象となりました。
こうした男女間賃金格差の現状を踏まえ、更なる格差縮小を図るため、厚生労働省令が改正されました。
同年7月8日の施行に伴い、行動計画における情報公表の区分「1.女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」および「2.職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」のうち、1.に「男女の賃金の差異」の項目が追加されました。
常用労働者数が301人以上の一般事業主に対しては、当該項目は公表しなければならない必須項目となっています。
男女の賃金の差異の算出方法
まず労働者を正規雇用労働者(以下、正規)と非正規雇用労働者(以下、非正規)に区分します。
正規とは、直接雇用し、期間の定めなくフルタイム勤務する労働者および短時間正社員を指します。
非正規とは、正規以外の短時間・有期雇用労働者を指します。
派遣労働者については、派遣元事業主に情報公表義務があるため、派遣先の非正規からは除外する必要があります。
男女の賃金の差異の算出は、男女ともに同じ算出方法、人員数の数え方を用います。
賃金は、賃金台帳や源泉徴収簿をもとに、区分別の労働者を男女別にして、直近の事業年度の賃金総額を算出します。
この賃金総額を当該事業年度に雇用した区分別の人員数で除することにより、平均年間賃金を算出。
次に、正規と非正規のへ平均年間賃金を合計し、全労働者の平均年間賃金を算出します。
そして最後に、正規・非正規・全労働者の区分ごとに、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除し、100%を乗じて得た数値(%)を算出します。
数値は、小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位までとします。
この数値(%)が男女の賃金の差異であり、正規・非正規・全労働者の3つの区分により公表しなければなりません。
行動計画の公表方法
法に基づく情報公表は、事業主ごとに、厚生労働省運営の「女性の活躍推進企業データベース」や、自社のホームページを利用して外部へ公表する必要があります。
女性の活躍に関する情報は年に一度、データを更新する必要があるので注意しましょう。