繰下げ受給の上限年齢変更に伴い施行 老齢年金「5年前みなし繰下げ」制度
2023年4月1日より、70歳以降に老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を請求した場合に、特例的に繰下げのみなし増額が適用される「5年前みなし繰下げ」制度が施行されました。具体的な内容と、その活用方法をお伝えします。
老齢年金の繰下げ受給
老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、原則65歳に達することにより支給される公的年金です。「老齢による稼得能力の減退・喪失に対して、所得保障を行う」という考え方に基づき、個々の受給者が、所得状況や老後の生活設計に応じて受給開始年齢を選ぶことができる仕組みとなっています。
65歳より遅く受給を始めた場合(繰下げ受給)、65歳から繰り下げた月数により増額した年金を、生涯にわたり受給できます。
2020年の年金制度改正法では平均寿命の伸長や高齢期における就労の拡大を踏まえ、2022年4月以降、繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました(1952年4月1日以前に生まれた人は従来通り70歳)。
繰下げ増額率(0.7%×繰り下げた月数)は変わらず、月額は最大で+84%の増額となります。
年金給付の時効
年金の時効には、基本権の時効と支分権の時効があります。
基本権とは年金を受ける権利であり、受給要件を満たした場合に発生する受給権のことです。
基本権は、権利が発生してから5年を経過すると、時効により消滅します。
一方、支分権とは基本権に基づいて年金の支給を受ける権利です。
支分権については、2007年7月6日施行の時効の特例等に関する法律により、法施行日後に基本権が発生した人を対象として、消滅時効成立には時効の援用(国が時効の成立を主張すること)が要件となっています。
時効に関しては、老齢年金の受給開始年齢の拡大に伴い、その対象者が70歳到達後に、繰下げ受給の申し出を行わずに遡って年金を請求した場合、請求時点で5年以上前の月分の年金が消滅時効となるという問題がありました。
2020年の年金制度改正法では、70歳以降も安心して繰下げ待機を選択することができるように、「5年前みなし繰下げ」制度が設けられ、2023年4月から施行されています。
繰下げ制度の特例
「5年前みなし繰下げ」とは、70歳以降80歳未満の間に老齢年金を請求し、繰下げ受給の申し出を行わない場合に、請求時点の5年前に繰下げ受給の申し出があったとみなされる、繰下げ制度の特例です。
年金額の算定は、受給権が発生した日から老齢年金を請求した日の5年前の日までの繰下げ待機期間の月数に応じた増額分を「繰下げ加算額」として算出し、本来の年金額と合計します。
繰下げにより増額した年金は、請求手続き前の5年間分が一括して支払われるとともに、請求を行った日の属する月の翌月から支給されます。
対象者は、2023年3月31日時点で(1.)71歳未満である(1952年4月2日以降生まれの人)、または(2.)老齢年金の受給権を取得した日から起算して6年を経過していない、老齢年金の受給権を取得した日が2017年4月1日以降の人、です。
繰下げ制度の特例の留意点
特例の対象外となるのは、請求時年齢が80歳以降で、繰下げ受給の申し出を行わない場合や、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金を受給する権利がある場合です。
また、対象者が5年前みなし繰下げ制度を利用すると、繰下げによる年金額の増額や、過去分の年金を一括受給することで、遡って医療保険や介護保険の自己負担額や保険料、税金などが増える場合があります。
厚生労働省のホームページ上では、スマートフォンやパソコンで利用できる「公的年金シュミレーター」が開設されています。
様々なライフプランに応じた年金見込額を試算して、繰下げ受給の仕組みを利用するなど、高齢期の就労や老後の生活設計を見据えて、慎重に検討しましょう。