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本採用見送りとする場合の注意点も解説 試用期間中のトラブルと対応策

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投稿日:2023年6月8日(木)

新年度を迎えて、新卒等を含め新たに労働者を採用し、入社後の一定期間を「試用期間」として定め、この間に採用したが労働者の人物・能力等を評価して本採用とするかどうかを決定する会社は多いことでしょう。ここでは、試用期間に起こり得る問題を取り上げながら対応策をまとめます。

試用期間とは

試用期間とは、企業が従業員を本採用する前に一定の期間を定めて、採用した労働者について応募時の面接や履歴書・職務経歴書などでは見極めることができない面や、採用後の実際の勤務態度、能力、適性などを評価し、本採用とするかどうかを判断するための期間をいいます。

試用期間を設けることおよびその長さについては、法律で定められているものではありません。

試用期間に関する調査データでは、調査時期はやや古いものの独立行政法人労働政策研究・研修機構の「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査」(2005年5月)があります。

それによれば、試用期間を定めている企業の割合は73.2%であり、そのうち3カ月程度よりも短く設定している企業は86.5%、6カ月程度よりも短く設定している企業は99.1%となっています。

また、試用期間を設けている企業のうち71.1%が試用期間を就業規則に定めています。

したがって、試用期間を設ける場合には、就業規則や雇用契約書に明確にその期間を定めておく必要があります。

その期間は、試用期間中のトラブルも増えていることを勘案すると、6カ月程度の期間が適当と言えます。

試用期間中の本採用拒否

試用期間中とはいえ、労働契約は有効に成立していますので、採用したものの思った人材ではなかったことなどを理由に安易に本採用を取り消すことはできません。

本採用を取り消すことは、既に成立している労働契約を解消することであり「解雇」となります。

解雇は、客観的かつ合理的な理由および社会通念上相当であることが認められなければ、解雇権の濫用として無効となります(労働契約法第16条)。

試用期間の法的性質は「解雇権留保付雇用契約」といい、試用期間中の解雇は、留保された解雇権を行使するということです。

通説・判例上は、留保解雇権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇を認めていますが、試用期間の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が必要とされます。

試用期間中の解雇が認められる場合

前述のとおり、試用期間は従業員としての適格性判断のための観察期間なので、解雇が有効となる理由は当該期間中における適格性欠如の具体的事由に基づくものでなければなりません。

主な具体的な事由には、後に詳しく述べる1.勤務態度不良、2.協調性の欠如、3.能力不足、4.業務命令違反、5.履歴等の重大な虚偽(経歴詐称)などがあります。

なお、試用期間中といえども解雇される理由が不明確な状態での解雇はできません。

したがって、就業規則などによって、試用期間中にどのような場合に本採用拒否(解雇)になるのか、その理由をより具体的に定めておくべきです。

1.勤務態度不良

試用期間中にもかかわらず、遅刻、早退、欠勤などが多く職場規律を守らない場合などは、勤務態度不良として本採用拒否(解雇)の正当な理由として認められやすくなります。

しかし、遅刻、早退、欠勤の程度が極めて少ない場合や、注意・指導の実績がなければ解雇は難しくなります。

試用期間中にもかかわらず遅刻、早退、欠勤が多く注意・指導を重ねても改善されない状態が続けば、解雇が認められる可能性が高くなるといえます。

2.協調性の欠如

試用期間中にもかかわらず、上司からの業務命令や指示に従わず反発したり、同僚など他の社員とトラブルを起こしたりするような行為は協調性がなく、勤務態度が悪いと判断され、解雇が認められやすくなります。

ただし、このような場合も注意や適切な指導を重ねても改善されないという事実が必要となります。

3.能力不足

試用期間は、新たに入社した従業員の教育期間でもあります。

なんら教育指導も行わずに本人の仕事への取り組みにも任せ、その結果のみで能力不足として解雇することはできません。

それ相応の教育や指導をしたという事実が必要となります。

適切な指導を繰り返し受けているにもかかわらず、指示通りに仕事ができない場合は、解雇が認められやすくなります。

また、部署が複数ある会社の場合、配属された一つの部門の業務のみで能力不足と判断するのではなく、配置転換をしたり、他の業務を担当させたりして、それでも適性や業務遂行に問題がある場合に初めて有効な解雇となり得ます。

即戦力として一定の経験や職務経歴に期待して職務を限定した中途採用の場合でも、転職によって職場環境が変わり、仕事に慣れておらず成果を出せないこともあることを考慮しなければなりません。

また、能力不足を理由とした解雇には能力不足であることの客観的理由が必要ですが、一般的に試用期間の数カ月の間で客観的理由を証明することは難しく、不当解雇として判断される可能性が高くなってしまいます。

したがって、試用期間中における指導実績を記録しておくなど、繰り返し指導を行なったものの改善の見込みがないことを証明する客観的な資料が必要となります。

4.業務命令違反

入社して担当する業務に関する上司や先輩の指導や業務命令に従わないことは、業務命令違反となります。

従業員は労働契約に基づき、会社の指示に従って誠実に労働する義務(誠実労働義務)があります。

業務命令違反は職場の秩序を乱す要因ともなります。

能力があるのに「このような仕事はしたくない」「自分がやるべき仕事ではない」などの理由で業務命令に従わないことは問題です。

このような場合は、業務命令に従わないことの問題の重要性を指摘し、注意・指導を重ねて、それでも改善しないという事実があって初めて解雇が認められやすくなります。

5.経歴詐称

試用期間中に経歴詐称(学歴、年齢、職歴、犯罪歴など)が判明する場合があります。

しかし、そのことをもって直ちに解雇が正当となるものではありません。

経歴詐称の程度・内容によっては解雇が無効と判断されることもあります。

詐称した学歴や経歴などを信用し、その学歴、経歴であれば仕事ができるものと判断して採用した場合で、経歴詐称を理由とする解雇が有効となるためには、学歴・経歴等が採否の判断に重要な影響を及ぼすものである必要があります。

詐称した学歴や経歴が従事する仕事と関連性がないなどの場合は、経歴詐称を理由として解雇することは難しいといえます。

したがって、経歴詐称による試用期間中の解雇は、詐称内容が試用の判断に及ぼした影響の大きさや従事する業務との関連性がどの程度かによって解雇の有効性が問われることになります。

試用期間中の解雇の手続き

試用期間中だからといって、就業規則に基づく本採用取消事由に該当することを理由に即時解雇できるものではありません。

解雇をするには、通常の解雇と同様に、30日前の解雇予告や、予告が30日前より遅れた場合は解雇予告手当の支払いが必須です。

ただし、採用してから14日が経過していなければ、これらの解雇手続きは必要ありません。

とはいえ、14日という短い期間での判断は十分な証拠が得られず、解雇は難しくなってくるでしょう。

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