企業に求められるLGBTへの配慮 LGBT社員の雇用管理上の留意点
近年、性的指向や性自認に関する差別的言動や嫌がらせなどを問題として、その対応が注目されています。
すべての労働者にとって働きやすい職場とは何か、今回は性の多様性に関して、企業が取り組むべき課題を考えていきます。
性の多様性への理解
「性」のあり方は、出生時の身体的特徴から男女として二分されるのではなく、「性的指向」と「性自認」から構成されるとする考えが主流です。
なお、「性的指向」とは恋愛感情や性的関心がどの性別を対象としているか、「性自認」とは自分の性別をどう認識しているか、ということを指します。
性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとった「SOGI(ソジ・ソギ)」は、性的マイノリティを表す総称のひとつである「LGBT」に限らず、すべての人にあてはまる属性です。
性の多様性を理解することは、個人の人格や尊厳を尊重することであり、誰もが自分らしく生き生きと活躍できる社会の実現に繋がります。
ハラスメント防止措置1.
2020年6月1日施行の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、事業主にはパワハラ防止に関する措置を講ずる義務があります。
具体的内容は、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ防止指針)」に定められています。
指針には、相手の性的指向・性自認に対して侮辱的な言動を行うこと(SOGIハラ)、本人の了解を得ずに性的指向・性自認などの個人情報を暴露すること(アウティング)は、パワハラに該当する可能性があると明記されています。
ハラスメント防止措置2.
男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラについて、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。
具体的内容は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(セクハラ防止指針)」に定められています。
職場におけるセクハラには、同性に対するものも含まれ、性的指向や性自認にかかわらず、性的な言動であればセクハラに該当すると明記されています。
職場における対応
まず企業として、「性的指向や性自認にかかわらず、多様な人材が活躍できる職場環境を作る」という方針を明確に打ち出し、周知することが重要です。
さらに、ハラスメント防止対策も含めた性的指向や性自認についての研修を行い、社員一人ひとりが性の多様性への理解を深めることが重要です。
相談体制の整備も必須です。
パワハラ・セクハラ防止措置義務と同様に、充分な知識を持つ担当者が相談に応じるなど、適切な対応ができる体制整備が求められます。
雇用管理上における取り組み
採用活動においては、性的マイノリティなど特定の人を排除しないように、公正な採用基準と方法に基づいた「公正な採用選考」の実施が求められます。
採用プロセスにおいて、求職者が自身の性的指向や性自認について伝えてきた場合は、機微な個人情報として慎重に扱うことが重要です。
また、昇進・昇格、福利厚生などの雇用管理面においても、すべての労働者に対して公正・公平な取扱いが求められ、ハラスメントやアウティング防止のための取り組みが必要です。
特にトランスジェンダー(性同一性障害を含む)の社員に対しては、「自認する性」でのトイレや更衣室などの利用、服装や容姿による勤務、通称名の使用など、様々な配慮が必要となります。
職場において性的マイノリティに関する取り組みを行うことは、多様な人材が活躍できる職場環境を整備することであり、組織の活性化や人材確保に繋がります。
一方、誤解や理解不足により不適切な対応を取った場合には、人権尊重やコンプライアンス対応の観点から、法的責任の発生、企業イメージの毀損などのリスクに繋がります。
留意して対応しましょう。