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2024年4月以降の継続・新規導入には新たな手続きが必要 裁量労働制の現状と改正における対応

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投稿日:2023年9月6日(水)

裁量労働制は1987年の労働基準法改正で導入された労働時間制で、労働者が自ら働く時間を決められるため、多様な働き方を実現する手段のひとつといえます。

しかし、長時間労働を助長するなどの課題も抱えており、一部が見直されました。

その改正のポイントを確認します。

裁量労働制とその現状

裁量労働制とは、実際に働いた労働時間の長短にかかわらず、あらかじめ労使間で決めた労働時間を働いたものとみなす、労働基準法上の「みなし労働時間制」のひとつです。

したがって、裁量労働制を適用する労働者については、例えば労使協定等で「1日8時間働いたものとみなす」と決めた場合には、実際の労働時間が10時間であっても、あるいは3時間であっても、「8時間労働したもの」とみなされて賃金が支払われることになります。

裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。

「令和4年就労条件総合調査」(厚生労働省)によれば、裁量労働制を導入している企業の割合は「専門業務型」2.2%、「企画業務型」が0.6%となっており、それほど導入が進んでいないのが現状です。

専門業務型裁量労働制を適用できるのは、「業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる業務として、厚生労働省令及び大臣告示で定められた専門的な業務に従事する労働者」についてであり、現行法では新商品、新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計等の19種類の業務に限定されています。

他方、企画業務型裁量労働制を適用できるのは、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するために、業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者に委ねる業務に従事する労働者」であり、かつ、1.本社・本店である事業場、2.事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場、3.独自に事業の運営に影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行う支社・支店等である事業場など、導入できる事業場は限定的です。

メリット・デメリット

裁量労働制には、所定労働時間を働くという固定的な労働時間の考え方はないので、労働者から見れば、仕事を進める上で自らがその裁量で働く時間を決められるというメリットがあります。

労働時間の長短にかかわらず、求められる成果をあげれば自分のペースで働けるため、モチベーションやワークライフバランスを保ちやすく、生産性の向上に繋がる面もあります。

2021年に厚生労働省が公表した「裁量労働制実態調査」によれば、裁量労働制適用労働者における満足度は「満足している」(41.8%)、次いで「やや満足している」(38.6%)と満足度の高い働き方であることがわかります。

また、適用労働者における働き方の認識状況別労働者割合では、「時間にとらわれず柔軟に働くことで、ワークライフバランスが確保できる」(50.4%)が最も高く、次いで「仕事の裁量が与えられることで、メリハリのある仕事ができる」(48.9%)、「効率的に働くことで、労働時間を減らすことができる」(45.7%)となっています。

会社から見れば、みなし労働時間制は深夜業や休日出勤に関しての労働基準法上の割増賃金の支払義務はあるものの、所定労働日の時間外労働による残業代は発生しないため、人件費を予測・管理しやすくなるというメリットがあります。

一方、デメリットとしては、労働者から見れば、仕事が立て込んでいる時などに長時間労働になりやすく、かつ、長時間労働になっても深夜業や休日労働以外は残業代が出ないこと、慢性的な長時間労働が生じている場合は、不満が溜まるだけではなく、心身の健康にも影響が出る可能性があることなどがあげられます。

会社から見れば、何時間働くかは労働者の裁量となるので、労働時間管理や健康管理といった労働管理が難しくなることがあげられます。

改正のポイント

こうした裁量労働制の実情を踏まえて、より柔軟な働き方を実現するために法改正が行われ、今後新たに裁量労働制を導入する企業および既に導入済みで制度を継続する企業は、2024年4月以降、新たな手続きが必要となりました。

1.専門業務型裁量労働制

前述の通り、専門業務裁量労働制の対象業務として「19業務」が限定列挙されていますが、改正により新たに「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が追加されました。

また、専門業務型裁量労働制を導入するには、労使間で法定上の必要事項を定めた労使協定を締結し、それを所轄労働基準監督署へ届け出て、労働者に周知しなければならないことになっています。

2024年4月以降は、この労使協定に定めるべき事項として、1.労働者本人の同意を得ること、2.同意をしなかった労働者に対し、解雇などの不利益な取扱いをしないこと、3.同意の撤回に関する手続き、4.同意とその撤回に関する労働者ごとの記録を保存すること、を追加しなければなりません。

これまで「労働者本人の同意」は要件にありませんでした。

そのため、既に専門業務型裁量労働制を導入している企業は、2024年3月末に向けて、適用対象の労働者から個別に同意を得る必要があります。

なお、労働者の同意に関しては、労働者が制度を正しく理解し、労働者の自由意志に基づいて同意していることが必要となります。

2.企画業務型裁量労働制

現在、企画業務型裁量労働制の導入にあたっては、対象事業場において、労使双方の代表者を構成員とする労使委員会を設置し、1.対象となる業務、2.対象労働者の範囲、3.みなし労働時間など法定上必要な事項を決議し、当該決議内容を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。

なお、対象労働者から個々の同意を得ることについては現行法でも求められています。

2024年4月以降は、労使委員会の運営規定に、1.対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明事項(説明を事前に行うことや説明項目など)、2.制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握制度や方法など)、3.労使委員会の開催頻度を6カ月以内ごとに1回とすること、を定めなければなりません。

なお、定期報告の頻度については、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6カ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回になります。

さらに、労使委員会の決議には、1.同意の撤回の手続きと、同意とその撤回に関する記録を保存すること、2.対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと、を追加で定めなければなりません。

3.その他の留意事項

裁量労働制では、対象労働者の労働時間の状況を把握するとともに、その状況に応じて、労使協定または労使委員会決議で定めた健康・福祉確保措置を講ずることとされ、具体的な措置については指針で例示されている中から選択して実施することが望まれています。

改正によって新たに、勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間の上限措置、一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導などの措置が追加されました。

新規導入および継続を考えている場合は、来年4月に向けて準備を進めていきましょう。

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