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令和5年版 労働経済白書の分析結果 持続的な賃上げに向けた今後の方向性

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投稿日:2024年2月2日(金)

2023年9月末、厚生労働省より「令和5年版 労働経済の分析」(労働経済白書)が公表されました。

「持続的な賃上げに向けて」をテーマとして、第1部「労働経済の推移と特徴」、第2部「持続的な賃上げに向けて」の2部構成になっています。

ここでは第2部の分析結果を見ていきます。

労働生産性の賃金と動向

「令和5年版 労働経済白書」の第2部「持続的な賃上げに向けて」では、賃金の動向とその背景、賃上げによる企業・労働者・経済への効果、今後の方向性などについて分析しています。

まず、賃金の動向を見ていくと、我が国一人当たりの賃金は、1970年代から1990年代前半までは、労働生産性(以下、生産性)の向上に強く連動する形で、ほぼ一貫して増加していました。

1980年代における賃金上昇の落ち着きは、安定成長期へ移行した帰結であると分析されています。

しかし、1991年にバブルが崩壊し経済活動が滞るなか、1990年代半ばにかけて生産性の上昇ほどには賃金が増加しづらい状況が継続しました。

以降25年間、生産性と賃金はほぼ横ばいで推移し、両者の伸びに乖離がみられるようになっています。

賃金停滞の背景

生産性と賃金の乖離については、経済活動により得られた付加価値の在り方において、「分配と配分」の変化が背景にあると考えられています。

付加価値が労働者にどの程度配られたかという「分配」の側面からは、1.経済見直しの低さによるリスク回避として内部留保するなど、企業の利益処分が変化してきたこと、2.労働組合の推定組織率と組合員数は長期的な低下・減少傾向にあり、労使間の交渉力が変化してきたことが挙げられています。

「配分」の側面からは、3.パートタイム労働者の増加など雇用者の構成が変化したこと、4.日本型雇用慣行である年功序列型賃金と終身雇用が衰退し、変容していることが挙げられています。

また、5. 60歳以上の男女の就業率が上昇し、就業者の構成割合が変化するなか、働く目的や時間の自由度、労働者が仕事に求めるニーズが多様化していることなどが挙げられます。

以上5つの変化は、過去25年における分析の結果、すべて賃金を押し下げる方向に影響を及ぼしてきたと考えられています。

賃上げによる影響

近年、企業における人手不足は深刻化する傾向にあります。

雇用状況を把握する上で重要な指標となる求人充足率は、2009年をピークに30%近くから低下傾向で推移しています。

近年では、フルタイムで10%程度まで低下し、パートタイムでは15%程度で推移していることが確認できます。

求人条件において、賃金の引き上げは、一定程度求職者の応募を促す効果があると考えられています。

求人賃金の下限を地域別最低賃金(以下、最低賃金)よりも5%以上高い水準で提示した場合、3カ月以内の被紹介件数が約10%増加したことが報告されています。

雇用者に対する賃上げの効果としては、離職の減少が挙げられています。

年収が増加するほど、仕事に対する満足度や幸福度が向上し、自己啓発活動を新たに行う割合が高く、働き方の主体性にもプラスの効果をもたらす可能性が高いと考えられています。

また、賃上げは経済全体に好影響を及ぼし、特にフルタイム労働者の定期給与・特別給与は消費額への影響が大きく、1%増加するとその消費額をそれぞれ0.2%・0.1%増加させる効果があると報告されています。

賃金の増加における生産・雇用誘発効果をみると、全労働者の賃金が1%増加した場合、生産を0.22%、雇用を0.23%、雇用者報酬を0.18%引き上げると分析されています。

この引き上げ率は、2021年の消費転換率をもとに仮定した場合、生産額は約2.2兆円、雇用は約16万人、雇用者報酬は約5000億円の増加と推計されています。

さらに、賃金は結婚選択にも影響を及ぼし、男女ともに年収が高いほど結婚確率が高い傾向にあります。

正規雇用については、結婚確率の引き上げ効果があると確認されています。

賃上げの現状

2022年の賃上げ状況については、9割を超える企業が何らかのかたちで賃上げを行ったことが報告されています。

実施理由として、社員のモチベーション向上や定着、人員不足解消が多く、未実施の企業では業績の低迷や不透明な先行きがその要因となっています。

3年前と比較して売上総額、営業利益、経常利益、生産性の業績のいずれにおいても増加した企業の方が賃上げを実施している割合が高くなっています。

また売上総額、営業利益、経常利益の見通しが増加すると見込む企業では、ベースアップや一時金増額を実施している傾向があります。

さらに、価格転嫁率が高いほど賃上げを実施している傾向があり、賃上げには価格転嫁も重要な要素であることがわかります。

原材料費などの価格上昇分を販売価格に全く転嫁できていない企業は3割強。

価格転嫁しづらい理由としては、販売価格の上昇に伴う販売量減少への危惧や、取引先・消費者との今後の関係性を重視するため、などが挙げられています。

企業が賃上げを実施しやすい風潮や環境を整えるためにも、適正な価格による販売・購入を可能とする適正な価格転嫁を促すことが急務となっています。

持続的な賃上げへの取り組み

生産性の向上と賃上げに資する取り組みについては、3つの視点から今後の方向性が挙げられています。

一つ目は、イノベーションの担い手として、スタートアップなど新規開業企業が活躍しやすい環境を整えることです。

スタートアップ企業などは成長見通しが高く、人材採用は重要課題であり、定期給与を5%以上増加させるなど賃上げ率が高い傾向があります。

二つ目は、転職によるキャリアアップの実現を可能とする環境を整備することです。

転職を経ると、2年後には年収が大きく増加する確率が高いことが報告されています。

転職は、仕事に対する「活力・熱意・没頭」の3つを兼ね揃えたワークエンゲージメントを高め、企業の成長に貢献し、結果として、経済全体の生産性向上を図ることが可能になると考えられています。

三つ目は、非正規雇用労働者の正規雇用への転換支援など、希望する人が正規雇用になりやすい環境を整備することです。

正規雇用への転換は年収が増加するだけでなく、雇用が安定し、キャリアの見通しが開けるなかで、自己啓発活動を行う労働者の割合が高まることが確認されています。

政策による賃金への影響

経年的に最低賃金が引き上げられるなか、最低賃金近傍に位置するパートタイム労働者の割合は上昇傾向で推移しています。

最低賃金1%の引き上げは、パートタイム労働者下位10%の賃金を0.8%程度引き上げる可能性があり、今後さらに賃金分布や水準に大きく影響を及ぼすと分析されています。

パートタイム労働者に求められる生産性は大きく、賃金の底上げには、最低賃金の引き上げが可能な環境整備が重要であると考えられています。

また2020年以降、いわゆる同一労働同一賃金の施行により、正規・非正規雇用労働者の時給差は約10%縮小し、非正規雇用労働者に対して賞与を支給する企業割合は約5%上昇した可能性があると報告されています。

最低賃金の引き上げに伴い、今後も正規・非正規雇用労働者の時給比の縮小傾向は続くと考えられています。

政策として生産性の向上に向けた取り組みや賃金の底上げを持続して行うことは、将来にわたり企業が安定的な成長を続け、経済全体が再び成長軌道に乗るために欠かすことができない重要な要素となっているのです。

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