有期雇用労働者を正社員化すると最大80万円の助成 拡充されたキャリアアップ助成金の活用
非正規雇用労働者を正社員化した場合に助成する「キャリアアップ助成金正社員化コース」について、厚生労働省は2023年11月29日以降に正社員化した場合、助成額の拡充や加算措置の新設などを行うこととしました。そこで正社員化コースの概要と改正のポイントを紹介します。
キャリアアップ助成金とは
厚生労働省は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、非正規雇用労働者を正社員に転換したり、または処遇改善に取り組んだ事業主に対する助成制度として「キャリアアップ助成金」を設けています。
キャリアアップ助成金には正社員化支援と処遇改善支援の2つが設定されています。
このうち処遇改善支援には、1.賃金規定等改定コース、2.賃金規定等共通化コース、3.賞与・退職金制度導入コース、4.短時間労働者労働時間延長コースの4コースに加えて、2023年10月に短時間労働者への社会保険加入を促進するための処遇改善を目的とした「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。
他方、正社員化支援には、1.正社員化コース、2.障害者正社員化コースの2コースがありますが、このうち正社員化コースについての助成金が拡充されました。
正社員化コースの対象事業主、支給対象労働者
正社員化コースは、次のいずれの条件にも該当する事業主が、有期雇用労働者、短時間労働者、無期雇用労働者等(以下、有期雇用労働者等)を就業規則または労働協約等の定めに基づき正社員(派遣労働者については直接雇用)に転換等をした場合に支給されるものです。
1.対象事業主が、雇用保険の適用事業主であること
2.対象事業所ごとにキャリアアップ管理者を選定していること
3.キャリアアップ計画書を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けていること
4.対象労働者の労働条件(労働契約書)、勤務状況(出勤簿等)、賃金支払状況(賃金台帳等)などの書類が整備されていること
5.キャリアアップ計画期間内にキャリアアップ(正社員化)に取り組んでいること
支給対象となる労働者は、上記条件に該当する支給対象事業主に正社員と異なる雇用区分の就業規則等(非正規雇用労働者就業規則、パート労働者就業規則など)の適用を受けて、6カ月以上雇用されている有期雇用または無期雇用労働者です。
また、6カ月以上継続して派遣先の事業所で業務に従事している派遣労働者や、有期実習型訓練を受講して修了した有期雇用労働者も対象となります。
ただし、一定期間経過後に正規雇用労働者として雇用することを約束して雇入れられた有期雇用労働者等は対象となりません。
なお、従前は支給対象となる有期雇用労働者を、「正社員に転換する前に、有期雇用労働者として雇用期間が通算して3年以内の者」とし、3年を超えている者は対象外となっていました。
しかし2023年11月29日以降に正社員に転換した場合は有期雇用期間の上限が撤廃され、3年を超えていても対象とすることになりました。
ただし、転換前の有期雇用期間が通算5年を超えている労働者は、労働契約法との整合性を勘案して転換前の雇用形態を無期雇用労働者から正社員への転換としての助成額となります。
なお、キャリアアップ助成金の支給を受けるには、正社員転換後の6カ月間の賃金が転換前6カ月間の賃金(基本給および定額で支給されている諸手当を含む賃金総額)と比べて3%以上増額していなければなりません。
また、キャリアアップ助成金の支給対象となる正社員とは、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用される労働者に限られます。
したがって、賞与については、就業規則等で賞与支給が明確でない場合は対象となりません。
例えば、就業規則に「賞与の支給は会社の業績による」というような規定を設けるだけでは賞与支給が明確でないと判断されます。
昇給についても同様です。例えば、「会社が必要と判断した場合は昇給する」というような規定では昇給があるということになりません。
助成金の額の拡充
助成金の額は図表のとおり、転換前の雇用形態と企業規模によって異なります。
なお、従来は、有期雇労働者から正社員転換後6カ月経過すれば転換労働者1人につき57万円(大企業は42万7500円)が1回限り支給されました。
しかし、2023年11月29日以降は対象期間が「6カ月」から「12カ月」に拡充され、正社員に転換した場合には転換後12カ月経過したところで80万円(大企業は60万円)となり、6カ月を1期として40万円(同30万円)、12カ月を2期40万円(同30万円)に分けて支給されることになりました。
また、新たに正社員転換制度の導入に取り組む事業主に対する支援を強化するために、正社員転換制度を新たに就業規則等に規定し、当該雇用区分に転換等をした場合には1事業所につき1回限り20万円(大企業は15万円)を加算することとしました。
無期雇用労働者からの転換制度を新たに規定した場合も同額の加算措置の適用を受けることができます。
そのほか、多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)の選択が可能となるように、多様な正社員制度を規定し、当該雇用区分に転換した場合にも、従来の9万5000円(大企業は7万1250円)の加算措置を40万円(同30万円)に拡充しました。
なお、当該加算措置についても1事業所につき1回限りとなります。
また、無期雇用労働者からの転換制度を新たに規定した場合も同額の加算措置の適用を受けることができます。
申請手続き
キャリアアップ助成金の申請は、正社員への転換実施前日までにキャリアアップ管理者を決めてキャリアアップ計画書を作成し、労働局あるいはハローワークへ提出して、その認定を受けなければなりません。
その後、正社員化に伴う転換規定がない場合は、就業規則などを改定して労働基準監督署に届け出ます。
そのうえで、当該規定に基づいて有期雇用労働者等を正社員に転換します。
その際には3%以上増額した賃金を支払い、6カ月の賃金支払いを終えた翌日から2カ月以内に支給申請を行うことになります。
キャリアアップ助成金制度は、申請要件を満たすだけで最低でも6カ月以上かかります。
審査結果が出てから受給までも相当の時間を要します。
また、不正受給が相次いだことから、近年は審査が厳しくなっているともいわれています。
事業主は要件および申請方法を十分に理解したうえで適切な申請を行うことが重要です。