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地震や台風の被害に会社はどう対応すべきか 自然災害時の労働・社会保険の取扱い

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投稿日:2024年4月6日(土)

1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」では火災や建物倒壊などの被害が相次ぎました。地震や台風などの自然災害はその地域に多大な被害をもたらし、企業活動にも様々な影響を及ぼします。

そこで今回は、自然災害を被った際の労務管理における従業員への対応策をまとめます。

自然災害などの非常災害時の労務管理

地震等の自然災害で被災した地域の企業は、被災状況に応じて操業停止や営業中止せざるを得ない状況となることで、その企業はもとより、関連する地域の企業の事業活動にも多大な影響を及ぼす場合があります。

やむなく倒産に追い込まれることもあるかもしれません。

このような場合、そこで働く従業員への対応についてコンプライアンス面を含めて検討する必要があります。

今回の能登半島地震に関しては、厚生労働省からも東日本大震災時の取扱いをもとに、新たな内容を追加して人事労務分野に係る情報が発信されています。

「休業手当」の支払いと雇用調整助成金の活用

地震等の自然災害による直接・間接の被害を受け、企業の事業活動の停止・縮小が余儀なくされるなかで、当然そこで働く従業員にもしわ寄せが及びます。

例えば、会社の建物や工場などが被害を被り、一時的に事業活動が休止となった場合には、従業員を休業させざるを得ません。

労働基準法では、「使用者の責めに帰すべき事由」(企業側の都合)で労働者を休業させた場合には、その休業期間中については休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないと定められています(第26条)。

しかし、地震等の自然災害による休業はそれに該当しません。

このような場合には、企業として休業手当の支払義務はないことになります。

他方、就業規則等でこのような事態でも休業手当を支払う旨を定めている場合には、それを支払わないことは労働条件の不利益変更に該当しますので、労働者に対して会社の状況なども十分に説明して、休業手当を支払わないことについての合意を得なければなりません。

なお、雇用保険には「雇用調整助成金」という支援制度があります。

これは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して休業手当を支払って一時的に休業させたり、教育訓練または他社への出向を行うことで労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。

厚生労働省は、2024年1月11日に「令和6年能登半島地震に伴う雇用調整助成金の特例」の実施を公表しました。

それによると、2024年1月1日から6月30日の間に地震の影響で事業の縮小を余儀なくされた全国の企業に対して、直近1カ月の売り上げ等の生産指標が前年同期比で10%以上減少していることなど、支給要件を緩和する特例措置を講じています。

こうした非常災害時にはこの助成金を活用して労働者の雇用維持を図り、事業の再開、再興を目指しましょう。

詳しくは、厚生労働省のホームページで参照してください。

賃金の非常時払い

企業としては、被災して一定期間休業する場合であっても、そこで働く被災労働者の生活にも配慮しなければなりません。

労働基準法では「労働者が生産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合は、使用者は、賃金支払期日前であっても既に行われた労働に対しては賃金を支払わなければならない」(第25条)と定めています。

この規定は自然災害発生時においても当然適用され、休業手当の支払いとは別に、労働者から請求があれば、被災前の既往労働分に対しては賃金の支払義務が生じます。

労災保険と健康保険

東日本大震災は平日の午後に発生したため、死傷した被災労働者の多くは業務中であり、業務上災害として「労災認定」されるケースがほとんどでした。

死傷等が業務上のものとして労災保険の補償の対象となるためには、その事故について「業務起因性」(業務に起因したものであること)および「業務遂行性」(事故が事業主の支配ないし管理下にあるときに発生していること)が認められなければなりません。

しかし、今回の能登半島地震は発生日が1月1日(祝日)であり、事業活動を行っていた企業は少なく、労災認定を受けるケースも少ないことと思われます。

労働災害に該当しなかった場合、会社の健康保険に加入していれば、被災して療養のための入院などで労務不能となった場合には健康保険から「傷病手当金」が支給されます。

事業縮小時による解雇や会社の倒産

自然災害が起こった場合でも、解雇は容易には認められません。

労基法第19条第1項但書では「天災事変その他やむを得ない事情での事業継続不可能による解雇」として、労働基準監督署長の認定を受けて解雇できる定めはあります。

しかし、これは実際には相当に高いハードルです。

不可抗力、突発的なもので、事業主として雇用継続の努力をしつくしても事業の全部、または大半の継続が不可能だという場合に限られます。

そのため、基本的には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という労働契約法第16条の規定が適用されます。

この場合、「整理解雇4要件」(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履践、被解雇者選定基準の合理性、解雇手続の妥当性)等を考慮し、判断されます。

さらに、有期契約労働者の場合、契約期間中の解雇については無期契約労働者よりも、むしろ厳しい要件が課される点にも注意が必要です。

また、自然災害による影響で会社が倒産手続を取らざるを得ない場合もあろうかと思います。

破産であれば全労働者が解雇されることになります。

民事再生・会社更生等の再建型の倒産手続であっても、労働者の一部の解雇はやむを得ないものであり、解雇が有効となる場合が多いと考えられます。

このような場合に起こるのが賃金の未払いです。

労災保険に加入している企業で、被災したことにより事業活動が停止し、再開の見込みがなく、労働者への賃金や退職金の支払いが不能となるなど事実上の倒産に至った場合には、国が事業主に代わって未払賃金の一部を立替払いする「未払賃金立替払制度」を利用することができます。

この制度を利用することで、倒産企業の労働者は、独立行政法人労働者健康安全機構から、未払賃金の80%(ただし、年齢に応じて上限額が定められている)につき、立替払いを受けることができます。

なお、この制度を利用するには、労働基準監督署長の認定が必要ですので、最寄りの労働基準監督署に相談してください。

社会保険料・労働保険料の納付猶予等

社会保険および労働保険の適用事業所は、それぞれの保険料を納付期限までに納付しなければなりません。

しかし、震災等の場合の多くは、「災害による納付の猶予」を受けることができます。

保険料の口座振替をしている場合には、それを停止できますので、管轄するハローワークや年金事務所に相談してください。

また、被災労働者が健康保険証を紛失している場合でも、医療機関等の窓口で「氏名」、「生年月日」、「連絡先(電話番号)」、「勤務先の事業所名」を申し出ることで受診が可能です。

自然災害時は会社の労務管理上においても通常とは異なる状況下で様々な対応が求められます。

日頃から自然災害に備えておくことが、会社の存続や従業員の生活を守るためにも非常に重要です。

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