7割の企業が本業に係るコストが昨年より上昇 コスト上昇に対する価格転嫁の現状とは
今年の春闘では昨年(賃上げ率3.60%)を上回る賃上げを目指していますが、物価高や円安、エネルギー価格の高止まりが続くなかで賃上げを実施するためには「価格転嫁」が不可欠です。
そこで、東京商工リサーチの調査をもとに企業における価格転嫁の現状を探ります。
東京商工リサーチが2月に実施した「価格転嫁に関するアンケート」調査で、今年1月の本業に係るコストが前年1月より上昇した企業が73.6%に上ることがわかりました。
これを産業別に見ると、農・林・漁・鉱業が80.9%と最も高く、次いで建設業が79.9%、製造業が76.0%と続いています。
原材料等の高騰が最多
コストが前年より上昇した企業における増加コストの内容は図表の通りで、9割以上の企業が「原材料や燃料費、電気代の高騰」が要因にあると答えています。
産業別で見ても10産業中9産業で最多となっており、そのうち農・林・漁・鉱業(100.0%)、金融・保険業(100.0%)、運輸業(96.9%)、製造業(96.1%)、建設業(95.9%)、卸売業(92.3%)が9割を超えています。
一方、「労務費(人件費)の増加」が最も多いのは情報通信業(76.5%)で、DX人材のニーズが高まるなかで外注費の上昇も反映していると推察されています。
次に、原材料や燃料費、電気代の高騰分を価格転嫁できているかについて尋ねたところ、37.9%の企業ができていないと回答しました。
転嫁率50%未満の企業も35.5%に上り、7割以上が半額以下の転嫁率に留まっていることがわかります。
転嫁できていない理由(複数回答)は、「受注減など取引への影響が懸念されるため」(60.0%)が最も多く、以下、「主要取引先からの理解が得られないため」(46.7%)、「同業他社が転嫁していないため」(41.5%)と続きます。
なかでも中小企業は「同業他社が転嫁していないため」が42.5%と、大企業の30.2%より12.3ポイント高く、価格が競争力に直結することから値上げをためらう傾向があるようです。
労務費の価格転嫁にも苦戦
一方、労務費(人件費)の増加分の価格転嫁については「転嫁できていない」企業が48.5%と半数近くを占めました。
転嫁率50%未満となると8割を超えます。
理由(複数回答)は「受注減など取引への影響が懸念されるため」(49.7%)、「主要取引先からの理解が得られないため」(46.5%)の順で、労務費の価格転嫁は原材料等以上に難しい現状のようです。
昨今のインフレへの対応や人手不足解消のためにも企業の持続的な賃上げは不可欠。
その実現に必要なのが適切な価格転嫁です。
政府も「中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック」(中小企業庁)や「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(公正取引委員会)などを作成し、企業の価格転嫁を支援しています。