柔軟な働き方を実現するための措置「育児・介護休業法」及び「次世代法」の改正
2024年5月31日に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律」が公布されました。企業にとっては2025年4月施行の改正事項を皮切りに順次実務対応が必要となるため、その概要を確認しましょう。
法改正の背景
今回の「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児・介護休業法)及び「次世代育成支援対策推進法」(次世代法)の法改正では、育児・介護に関する労働者の個別の事情に対応して、男女ともに仕事と育児・介護を両立できる環境を整備することを目的としています。
その背景には、男性の育児休業の取得率が2022年の時点で17.13%と依然として低く、取得期間を見ても2週間未満といった短期間の割合が高いという問題があります。また、女性の育児休業取得率は2007年以降8割台で推移しており、しかも、その9割以上が6ヵ月以上の長期にわたることから、育児における女性の負担の大きさがうかがえることも挙げられます(厚生労働省、令和3年度及び令和4年度「雇用均等基本調査」)。
さらに仕事と育児の両立のあり方について見ると、女性は育児休業後、子の年齢が1歳になると短時間勤務を希望し、3歳以降は残業をしない働き方やシフト調整、テレワークなど柔軟な働き方を希望する割合が高くなっています。一方の男性においては、子の年齢にかかわらず、残業をしない働き方や柔軟な働き方を希望する割合が高くなっています。
また、家族の介護や看護を理由とする離職者(以下、介護離職者)の現状については、2007年以降、減少傾向にあるものの、男性の割合は上昇傾向にあります。
そのうえ2022年には介護離職者が約10万6000人と増加に転じました。年齢は50歳から64歳が多く、60歳以上の年齢層での離職が増加していることがわかります(総務省「令和4年就業構造基本調査」)。
育児や介護に関する問題は個人の問題ではなく、企業内において個別の事情に配慮した職場環境の構築が必要不可欠となっています。
育児に関する改正事項1.
2025年4月に施行される改正事項は4点です。1点目は、所定外労働の制限となる対象労働者の範囲が拡大されます。従来は3歳に満たない子を養育する労働者において、請求すれば所定外労働の制限を受けて残業を免除することが可能です。改正後は小学校就学前の子を養育する労働者も請求することが可能になります。
2点目は、事業主が講じる措置の努力義務として、3歳に満たない子を養育する労働者に対して「育児のためのテレワーク」が追加されます。
3点目は、子の看護休暇の見直しです。名称を「子の看護休暇」に変更し、対象となる子の範囲が小学校3年生修了までに延長されます。休暇を取得するにあたっては、従来の病気やケガ、予防接種や健康診断の場合に加えて、感染症に伴う学級閉鎖や、入園(入学)式、卒園(卒業)式などの行事に参加する場合も取得可能となります。また、労使協定の締結に基づき除外できる労働者は、「週の所定労働日数が2日以下」の労働者のみとなり、従来の勤続6ヵ月未満の労働者要件は撤廃されます。
4点目は、育児休業取得状況に関する公表義務の対象が、常時雇用する労働者数が現行の1000人超の企業から300人超の企業に拡大されます。
育児に関する改正事項2.
施行期日を、「公布後1年6ヵ月以内の政令で定める日」とする改正事項は2点です。1点目は、柔軟な働き方を実現するための措置の義務化です。事業主は、フルタイムでの働き方として①始業時刻などの変更、②テレワーク等(10日/月)、③保育施設の設置運営等、④新たな休暇の付与(10日/年)、及び短時間勤務制度の導入のうち、2つ以上の制度を選択して措置を講じることが求められます。②のテレワークと④の新たな休暇については、原則として時間単位での取得が可能となります。労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。
2点目は、事業主の義務として、妊娠・出産の申し出時や子が3歳になる前に、対象となる労働者に対して、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮をすることが求められます。具体的な例としては、勤務時間帯や勤務地にかかる配置、業務量の調整、両立支援制度の利用期間や労働条件の見直しなどが挙げられています。
なお、事業主が講ずる措置については、過半数組合などからの意見聴取が必要であり、労働者に対する個別周知や意向確認については、面談や書面交付などが必要となる予定です。詳細については今後、省令や指針などで通達があるため、注視しましょう。
介護に関する改正事項
介護離職防止を目的とした施策については、2025年4月を施行期日として、仕事と介護の両立支援が強化され、事業主に対して2つの義務が課されます。1つ目は、労働者が家族の介護に直面した旨を申し出た時に、自社が実施する両立支援制度について、介護休業制度の目的を踏まえた上で個別に周知・意向確認を行うことが求められます。
2つ目は、社内における労働者への両立支援制度などについて、40歳など介護問題に直面する前の早い段階で情報提供を行い、研修の実施や相談窓口の設置など、制度を利用しやすい雇用環境の整備が必要となります。
また、事業主に対し、介護期の働き方として、労働者がテレワークを選択できるように措置を講じることが努力義務とされています。その他、介護休暇については労使協定に基づき、勤続6ヵ月未満の労働者を除外する仕組みを廃止するとしています。いずれも詳細については、今後、省令や指針などの通達があるため、注意して確認しましょう
次世代法に関する改正事項
一般事業主行動計画(以下、行動計画)とは、次世代法に基づいて、企業が従業員の仕事と育児の両立を図るための雇用環境の整備や、その他多様な労働条件の整備などに取り組むにあたり、①計画期間、②目標、③目標達成のための対策及びその実施時期を定めるものです。
現在、常時雇用する労働者が100人超の企業には、行動計画の策定・届け出、公表・周知が義務付けられており、100人以下の企業は努力義務となっています。
今回の改正では2025年4月を施行期間として、常時雇用する労働者が100人超の企業に対して、行動計画の策定時に育児休業取得状況や労働時間の状況を把握し、改善すべき事情を分析した上で、結果を勘案して新たな行動計画を策定または変更するという「PDCAサイクルの実施」が求められます。また、育児休業取得状況や労働時間の状況に関する数値目標を設定する必要もあります。
政府目標と求められる取組み
政府は、男性の育児休業取得率について、2025年に50%、2030年には85%とする目標を掲げています。厚生労働省の「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」によると、男性の育児休業等取得率は46.2%、育休等平均取得率は46.5日でした。ただし、これは育児休業等の取得状況の公表が義務付けられた従業員1000人超の企業の数値です。
昨年の法改正に続き、自社に影響する改正事項を踏まえた上で就業規則などの規定を再確認し、追加・修正を行う必要があります。全社一丸となって行動することで、より働きやすい職場環境の構築を目指していきましょう。